【東京選手権2025レポート①】

最優秀選手は女子円盤投6連覇の辻川。パリ五輪20kmW代表だった濱西は貫禄の圧勝

 東京選手権は4月2527日に駒沢オリンピック公園総合運動場で行われ、最優秀選手には大会2日目の女子円盤投で6連覇を達成した辻川美乃利(内田洋行AC)が選ばれた。また、オープン種目ではあるが、2日目の男子5000mWにはパリ五輪20kmW代表だった濱西諒(サンベルクス)が出場。自身の日本記録(181697)に22秒差に迫るタイムで優勝した。辻川の安定した強さの理由と、東京2025世界陸上を逃した濱西の今後のビジョンなどを紹介する。

●辻川の安定した強さの秘訣は修正能力

 辻川美乃利が最終6回目に5136と、自身の大会記録に2cm差と迫る記録を投げて6連勝を達成。最優秀選手にも選ばれた。

「東京の大会は職場の方たちも応援に来やすく、応援が力になっています。最低限の記録は投げられて、勝ち続けられています」

 選手が“最低限”という言葉を使うときは、合格点を意味することが多い。

 辻川の東京選手権の優勝記録とシーズンベストを表にしてみた。

20年:4907 5263

21年:5138 5391

22年:5066 5274

23年:5141 5384

24年:5119 5213

25年:5136 5244

 東京選手権の記録も、シーズンベストも一定レベルで安定している。

「試合の中で我を失うことがなくなり、自分の投てきを外から見る感じで修正ができるようになっています。今日だったら前半で技術を意識しすぎて、(回転の)勢いにつながっていなかった。スピードを出して、私の強みである振り切りの強さにつなげて、最低限の51m台を投げられました」

 修正能力が高く安定した結果を出すことはできても、自己記録は大学院2年(19年)時にマークした5446を更新できていない。シーズン序盤の東京選手権で出した記録から、プラス1~2mがシーズンベストということが続いている。

 日本選手権も郡菜々佳(新潟アルビレックスRC)、齋藤真希(太平電業)の2人に勝てず、記録も勝負も殻を破れない状況が続いている。だが、その状況を破るためのヒントを昨年、ドイツに行き金メダリストのコーチから指導を受けたことでつかんだという。

「最初に構えるときの入りの高さを深くして、(腰の高さを低くして)上半身よりも脚の動きを重視しました。深い位置で回して、左でしっかり踏んで、振り切りにつなげる技術です」

 今年9月の東京2025世界陸上に出場するには、現状ではハードルが高い。

「まずは自己新を出して、来年のアジア大会に出場したいと、(実業団に進んだ)20年から強く思っています。上2人に離されないように、食らいついていきます」

 今年の東京選手権は、その気持ちをいつも以上に強くしたようだ。

●濱西はアジア選手権へのピーキングの判断材料に

 レース前日にアジア選手権(5月2731日・韓国クミ)20kmWの代表入りが発表された濱西諒が、自身が日本記録を持つ5000mWに出場。同レベルの選手が不在だったこともあり、2位に2分半以上の差をつけて圧勝した。

「アジア選手権代表の可能性があると聞いていたので、速いペースで刺激を入れて、20kmに対して余裕度を持たせることが出場の目的でした。調整段階の感触としては良かったのですが、想定以上に速くなってしまいました」

 濱西が考えていたのは1000mを3分50秒ペースで歩き、1910秒を切るタイムでフィニッシュすること。実際は3分48秒で入り、4000mまでは3分44秒前後の一定ペースで歩き続け、最後の1000mは3分39秒まで上げてフィニッシュした。レース内容から「ピーキングの調整」が必要なことがわかったという。

「アジア選手権を“100”とするために、今日は“50”くらいでよかったのですが、“70”くらいの歩きでした。一度練習を抑えて、“60”くらいまで落とすつもりです。ゴールデンウィークが明けて、練習を上げていきます」

 競歩種目はすでに、9月の東京2025世界陸上代表選手が決まっている。20kmWは2月の日本選手権が実質的な一発勝負で、前年はそこで代表を決めた濱西だったが、今年は4位で代表を15秒差で逃していた。

 トラック&フィールド種目と違い、アジア選手権での成績が世界陸上につながらない。それでも濱西は、「競技をやっている以上、日の丸を付けるレースに出られるのはありがたいこと。代表が決まってお祝いもたくさん届きました。金メダルを取って恩返しをしたい」と力を込めた。

 世界陸上代表を逃したことを長期的視点でも活用する。濱西は実業団入り後の2年間は、「月間距離にフォーカス」してトレーニングを組み立ててきた。

「今年の夏は時間があるので、距離は維持しつつ、近年のスピード化に置いていかれないように、質(スピード)の部分を増やしたい」

 濱西の20kmWの自己記録は、パリ五輪を決めた昨年の日本選手権で出した1時間1742秒。日本記録は今年の日本選手権では山西利和(愛知製鋼)が1時間1610秒で、世界記録でもある。

「いきなり世界記録ではなく、まずは1時間16分台を目標にします。一番の目標は、オリンピックの借り(パリ五輪18位)はオリンピックで返すこと。来年の名古屋アジア大会、27年の北京世界陸上もしっかり狙って、28年のロサンゼルス五輪でメダルを取ることが最大目標です」

 その第一歩が今回の東京選手権だった。

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