【アジア大会東京勢展望】直前に68m29の日本新! 女子やり投・北口が、アジア記録保持者の中国選手と世界最高レベルの戦い

 第20回アジア大会の陸上競技が9月23~29日に、名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムをメイン会場に行われる。東京陸協登録選手は男子11人、女子15人が代表に選出されている。一番の注目は復調した女子やり投パリ五輪金メダリストの北口榛花(JAL)の、アジア記録保持者の嚴子怡(中国)との決戦だ。東京勢のうち北口と男子110mHの村竹ラシッド(JAL)、女子棒高跳の諸田実咲(アットホーム)の3人が日本記録保持者。ライバルも強いので簡単なことではないが、3人とも金メダルに挑戦する。男子マラソンの吉田祐也(GMOインターネットグループ)、女子100mHの福部真子(日本建設工業)、女子走高跳の髙橋渚(センコー)、男子5000mの森凪也(Honda)、女子800mの久保凜(積水化学)らも優勝争いが期待できる。

●1~4日目:女子棒高跳の諸田がアジア大会初の金メダルに挑戦

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<1日目(9/23)>

女子ハーフマラソン競歩:杉林歩(NTTドコモ)

<2日目(9/24)>

男女混合4×400mR:今泉堅貴(内田洋行AC)、寺本葵(アットホーム)

<3日目(9/25)>

女子棒高跳:諸田実咲(アットホーム)

<4日目(9/26)>

男子マラソン:吉田祐也(GMOインターネットグループ)

男子十種競技:奥田啓祐(ウィザス)

女子1500m:道下美槻(積水化学)

※予選、準決勝は除いて決勝種目のみ記載

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 大会前半は東京勢の出場が少ないが、3日目の女子棒高跳では、諸田実咲(アットホーム)が金メダルに意欲を見せている。

 諸田は前回の杭州アジア大会(23年)銀メダリスト。その時に跳んだ4m48の日本記録を、今年5月に4m50と更新。そしてアジア大会2週間前の全日本実業団陸上では、4m51と今季2度目の日本新を跳んだばかり。4m61の3回目も惜しい跳躍だった。

 アジアのライバルは牛春格(中国)で、今季4m73のアジア記録を跳んでいる選手。自己記録が22cm上の相手に勝つのは簡単なことではないが、4m60を1回目でクリアすれば勝機もある。

 全日本実業団陸上で使ったポールは長さが14フィート(4m27)、耐荷重155ポンド(70.3kg)で木南記念と同じだった。4m60ならそのポールでも越えられそうだが、4m65の勝負となると1つ上の硬さの160ポンドのポールを使いたい。練習では試したことがあり、「あのポールを曲げ込めたら楽しみです」と使いこなす手応えも感じている。

「そのポールをアジア大会で使えたら、(金メダルも)見えてくると思うので、160ポンドまで行くんだぞ、と自分の頭の中に入れて準備を進められたらな、と思います」

 この種目は98年の第13回大会から実施され始めた種目で、前回まで中国勢が勝ち続けている(7連勝)。諸田が勝てば日本の女子棒高跳にとって歴史的な日となる。

 諸田以外では2日目の男女混合4×400mRで、日本は金メダル争いをする力がある。昨年の東京世界陸上では予選で3分12秒08と日本記録を大幅に更新し、決勝ではタイムを落としたものの8位に入賞した。大会記録は前回のバーレーンの3分14秒02、アジア記録もバーレーンで3分11秒82。今泉堅貴(内田洋行AC)と寺本葵(アットホーム)が出走する可能性があり、金メダルに挑戦する走りが期待できる。

 大会4日目の男子マラソンでは、吉田祐也(GMOインターネットグループ)の勝負強さに期待できる。10回のマラソン歴で優勝3回と日本人トップが1回。だが昨年の東京世界陸上は34位と力を発揮できず、夏場の国際レースの難しさを経験した。

「夏は自分の感覚で疲労を残さないようにすることが大事だと言われて、自分でも練習を抑えたつもりだったのに、スタートラインに立った時は疲れている状態でした。自国開催だから気持ちを盛り上げられるだろうと思っていましたが、(疲れが残ってしまった不安もあって)結局雰囲気に飲まれてしまった」

 その反省をアジア大会で生かすことができれば、金メダル争いも可能な力がある。

●5日目:北口、世界陸上5位の村竹の2人に強力なライバル

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<5日目(9/27)>

女子マラソン競歩:梅野倖子(LOCOK)

女子走幅跳:高良彩花(JAL)

男子200m:林明良(慶大4年)

男子110mH:村竹ラシッド(JAL)

男子走高跳:坂井宏和(センコー)

女子100mH:福部真子(日本建設工業)

女子やり投:北口榛花(JAL)、武本紗栄(オリコ)

女子3000mSC:西山未奈美(三井住友海上)

男子十種競技:奥田啓祐(ウィザス)

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 大会5日目は東京勢10人が出場予定で、女子やり投の北口榛花(JAL)以外にも、五輪&世界陸上の入賞者である男子110mHの村竹ラシッド(JAL)、女子100mHで出場選手中2番目のシーズンベストを持つ福部真子(日本建設工業)ら、金メダル候補が続々登場する。

 女子やり投では今年に入って嚴子怡(中国)が71m74(世界歴代2位、アジア記録)と、昨年までの65m89から一気に記録を伸ばしてきた。71m74は5月のダイヤモンドリーグ(以下DL)厦門大会優勝時の投てきで、同じ大会に出ていた北口は60m08で7位。衝撃的な差をつけられた。

 今季の北口はコーチを男子やり投世界記録保持者、チェコ人のヤン・ゼレズニー氏(チェコ)に変更した。前コーチのチェコ人のデイビッド・セケラック氏の指導のもと、23年ブダペスト世界陸上と24年パリ五輪の金メダルを獲得。67m38(23年)まで日本記録を伸ばしていた。

 さらなる高みを目指してのコーチ変更だったが、フォームなど技術をいくつも変更したことで、記録が停滞することも想定はしていた。だが18歳の嚴が、70mをいきなり出したことは想定以上だった。70mは北口が将来的な目標としていた数字である。

 北口はDLを連戦するなかで6月28日のパリ大会は63m01(3位)、8月21日のローザンヌ大会は64m90(優勝)、9月5日のブリュッセル大会(DLファイナル)では65m44(2位)と記録を上げていたが、嚴には今季4連敗(25年には2勝)と勝てなかった。嚴が北口に勝った時の記録は71~67m台で、安定性でも北口を凌駕していた。

 今季の勝利は難しいと思われていたが、状況が一変したのが新設された世界アルティメット選手権(9月12日)だった。北口が68m92と日本記録を大きく更新し、68m05の嚴を破ったのだ。北口の学生(日大)時代に監督だった小山裕三氏(現佐野日本大学短期大学学長)は、5月のゴールデングランプリ(60m36)や6月の日本選手権(62m86)では、最後の右脚、左脚と着く投げの局面でスピードは出ているが、本来の特徴であるやりを右後方に残す動きができていないと指摘した。

「世界アルティメット選手権の北口は、スピードを上げる中で右にやりを残しています。なおかつ、クロスに入る前に一度下げていたやりをずっと高い所で保持することで、以前よりもやりに力が加わっているように感じました」

 目指す技術を考えていたよりも早くできるようになり、70mも期待できる段階に北口が成長している。

 アジア大会では世界最高レベルの戦いが展開される。嚴が有利であるのは明らかだが、嚴も68m以上は4試合だけ。世界アルティメット選手権では3投目以降を棄権していることから、万全の状態ではないことも推測できる。北口にも勝機は十分ある。

 男子110mHの村竹には、順大の先輩の泉谷駿介(住友電工)が強力なライバルとなる。

 24年パリ五輪、25年東京世界陸上と連続5位に入賞し、25年には12秒92(+0.6)と日本人初の12秒台も出した村竹だが、今年8月以降のDLはシレジア大会、ブリュッセル大会(DLファイナル)と連続7位。記録的にも5月に国内で13秒05(-0.2)を出したものの、8月以降は13秒3~7台にとどまっている。

 それに対して23年世界陸上5位入賞の泉谷は、6月に13秒1台を2回マークすると、7月にクロアチアの大会で13秒00(+1.2)の日本歴代2位をマーク。その2日後にはDLパリ大会に13秒01(+0.8)で2位、5位だった村竹に0.19秒差をつけた。

 村竹と泉谷は世界アルティメット選手権(9月11日)の準決勝2組でも直接対決。村竹が13秒31(+0.6)の4位で決勝に進んだのに対し、泉谷は明らかな失敗レースで13秒85の8位。アジア大会が日本人同士の決着をつける場になりそうだ。

●6~7日目:金メダルを目指す男子4×100mRに桐生と林が出走の可能性

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<6日目(9/28)>

女子400 mH:青木穂花(ゼンリン)

男子3000mSC:青木涼真(Honda)

男子1500m:森凪也(Honda)

男子4×100 mR:林明良(慶大4年)、桐生祥秀(日本生命)

<7日目(9/29)>

男子棒高跳:柄澤智哉(東日本三菱自動車販売)

女子走高跳:髙橋渚(センコー)、石岡柚季(日女体大AC)

女子800 m:久保凜(積水化学)

男子5000m:森凪也(Honda)

男女混合4×100mR:林明良(慶大4年)、桐生祥秀(日本生命)

女子4×400mR:寺本葵(アットホーム)

男子4×400mR:今泉堅貴(内田洋行AC)

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 終盤にも東京陸協登録選手が多数登場する。女子400mHの青木穂花(ゼンリン)、男子3000mSCの青木涼真(Honda)、男子棒高跳の柄澤智哉(東日本三菱自動車販売)、女子走高跳の髙橋渚(センコー)、女子800mの久保凛(積水化学)、男子5000mの森凪也(Honda)らがメダル争いに加わるだろう。

 金メダル候補種目としては6日目の男子4×100mRが挙げられる。メンバー候補の中では桐生祥秀(日本生命)と林明良(慶大4年)が東京陸協登録選手だ。

 桐生は個人種目の100mでは代表を逃したが、3走として五輪&世界陸上のメダルを獲得してきた4×100mRの中心選手として期待されている。日本チームがテストレースと位置付けて出場した7月のDLロンドン大会(3位・38秒66)、9月の全日本実業団陸上(オープン参加・38秒97)とも3走を任された。

「ロンドンも今回(全日本実業団陸上)もバトンパスがスムーズに流れていないので、アジア大会の予選で1区間1区間丁寧に、緊張感を持ちながら確かめたいと思います」

 林は個人種目の200mでは日本選手権2位で、その時にマークした20秒36(+0.5)は1国2名カウントで今季アジア5位。DLロンドンにも帯同したが、4×100mR代表チームでは全日本実業団陸上が初出走だった。

「ロンドンでは本当に色々な経験ができて、今日にも生かせたと思いますし、今大会もレース前に先輩方が色々と話をしてくれて、良い意味でリラックスした雰囲気でレースに臨むことができました。200mは日本選手権も、まだピークではなかったと自信を持って言えます。19秒台を狙いに行く姿勢で練習を積んできたので、アジア大会に向けて仕上げていきます。自国開催の大会ですし、もう1ギア上げて個人でもリレーでも、メダルが取れるように調整していきます」

 4×100mRは18年ジャカルタ大会では、今回も出場する多田修平(住友電工)が2走、桐生が3走で金メダルを獲得している。タイムは38秒16。前回の23年杭州大会(桐生が1走)は38秒44の2位、38秒29の中国に敗れてしまった。今年も5月の世界リレー選手権で、中国が37秒85の今季アジア最高を出したのに対し、日本は38秒01だった。

 桐生がアジア大会の目標タイムを、全日本実業団陸上で次のように話していた。

「2週間後のアジア大会にマックスを合わせることを考えたら、今日はスピード練習になったと思います。今日38秒前後を出していれば、1人0.2秒縮めて37秒台前半が出せた。今のアジアではそのレベルでないと勝てないので、僕自身もみんなも(0.2秒以上)タイムを上げることをあと2週間、しっかりやっていきます」

 日本が19年ドーハ世界陸上で銅メダルを取った時にマークした37秒43のアジア記録前後を出せば、金メダルの可能性は高い。アジア・ナンバーワンの座を奪回することが、ドーハ世界陸上以降遠ざかっている世界大会のメダルにつながっていく。

執筆者】 : 寺田辰朗         寺田的陸上競技WEB