今年の高校日本一を決めるインターハイの陸上競技が7月30日から8月5日まで、滋賀県彦根市の平和堂HATOスタジアムで開催された。最終日の男子110mHでは淺内湧一朗(日大豊山高2年)が14秒11(-1.2)で3位の好成績を残した。大会前の予想では高校歴代2位の13秒68(-0.7)を持つ髙城昊紀(宮崎西高3年)が、頭1つ抜けている存在だった。淺内の大会前の自己記録は13秒97(+0.1)だったが、「大会新記録で優勝」という高い目標を掲げていた。

●大会新で優勝が目標だった淺内。「悔しい、のひと言です」
110mHは東京の伝統種目になっている。一昨年のインターハイは古賀ジェレミー(順大1年。当時東京高2年)が2年生で優勝し、昨年は古賀が2連覇しただけでなく、当時2年生の冨永笙ノ介(明星学園高3年)が2位に続いた。淺内が大きな目標を設定したのは、同じ東京に2人がいたことも無関係ではなかっただろう。
大きな目標に向かうこと自体にも価値がある、と感じていた。予選のレース後に、決勝の目標を次のように話したのだ。
「高校2年生でインターハイに出るのだったら大きい目標を立てて、その目標を達成できるように走ってやろう、という気持ちで臨みます。(強い選手への挑戦は)緊張もありますが、楽しいです。大会新記録の13秒5台で走りたいと思っています」
頂点を目指すことが自分の成長につながる。そう考えて挑戦しているように見えた。
決勝のレースはどう感じたのだろう。
「(3位は)悔しい、のひと言ですね。優勝できなかったことも、(2位の)同じ2年生選手に負けたことも、どっちもです。大会記録も更新できず、おまけに自己記録も更新できなくて。中盤でハードルにぶつけて、焦ってしまったところがありました。ウォーミングアップでは走りやダッシュがよくて、脚が流れたり(キックした脚の前方への切り返しが遅れること)接地時間が長い課題も改善できていたので、なおさら悔しいです」
それでも全国で3位である。良かった点はなかったのだろうか。
「スタートと後半は、結構鋭く行けていたと思います。中盤でハードルにぶつけて、前に出られて焦ってしまいましたが、後半は巻き返せたところもあったと思います」
優勝した髙城は隣のレーンだった。中盤では前に出られたと感じたが、スタートや序盤は、「何も覚えていない」という。おそらく自分の走りとハードリングにしっかり集中ができていた。
初めてのインターハイ決勝でできたことと、課題と感じられたことの両方があった。高い目標で挑んだからこそ、感じることができた部分だろう。

●課題に対処する練習メニューは?
淺内は本来、「体が柔らかくて股関節が回りやすいので、ハードルにぶつけにくい」ことが特徴の選手。それがインターハイではできなかった。「焦ってぶつけてしまう精神面と、インターハイまでに万全にできなかった改善点があったことが原因」だと分析している。改善点は前述の、脚が流れてしまうことと接地時間が長くなってしまうこと。「決勝前のアップではできましたが、継続してできていたわけではありません。レースでいきなり出すことはできませんでした」
その課題に今後、どんな練習に取り組んだら改善していけると感じたのだろう。
「マーク走をしっかり練習していきます」
マーク走は一定間隔でマークを置き、それに合わせて素速く刻んで走る練習メニューである。現在は210㎝間隔で置いているが(ハードル間は9m14でその距離を3歩、ハードリングを含めると4歩で走る)、その練習での接地時間の短縮と、脚が流れない動きを体に覚え込ませ、ハードルへの接触をなくしていく。

●東京の110mHの環境を活用して
他の課題に対しても、東京の選手は恵まれた環境といえる。強力なライバルと地元の大会から競り合うことで、課題解決のヒントを得られる機会が多いからだ。
今年のインターハイには淺内の日大豊山高、6位入賞の髙橋健太(2年)の板橋高、今回はケガのため準決勝を棄権した冨永の明星学園高と、3つのチームから選手が出場した。昨年優勝者の古賀は東京高で、やはりチームが違う。それだけ多くの高校に110mH選手を育てるノウハウがある。
スプリントハードル種目(男子110mHと女子100mH)は他のトラック種目よりも、相手のリズムを感じ取りやすいと言われている。そのリズムを獲得するためのトレーニングを各選手、チームが工夫することで、違うアプローチでも同じレベルに成長できる。女子100mHがそのパターンでレベルアップし、ここ8年で、4選手により日本記録が11回もマークされた。東京の高校男子110mHにも同様の現象が起きている。
淺内は東京の現状について、次のように感じている。
「東京都の大会から実力が近い選手、上かもしれない選手と戦います。競り合った時にどう対応すればいいかを、練習というのもどうかと思いますが、練習できるのがプラスの要素です」
マイナス要素は何かあるのだろうか。
「負けると気持ちがやられることです」
負けず嫌いの側面が相当に強い選手である。
格上の相手に本気で向かって行ったのは、自身が成長するためよりも、本気で勝ちたい気持ちが強かったのかもしれない。
インターハイ後には、10月の国民スポーツ大会の東京都代表にも選ばれた。ライバルたちの思いも背負って戦うことになる。目指すのは優勝しかない。

【執筆者】 : 寺田辰朗 寺田的陸上競技WEB

