【東京選手権2026レポート⑥】アジア大会参考競技会の七種競技は田中が2連覇。日本人初の6000点突破とアジア大会代表へのステップに

 東京選手権は4月24~26日に駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で行われた。混成競技(男子十種競技と女子七種競技)は「愛知・名古屋2026 アジア競技大会に係る参考競技会」に指定され、日本のトップ選手が多数参加した。女子七種競技では田中友梨(スズキ)が5651点で2連勝。ヘンプヒル恵(アトレ)が20年に出した大会記録(5646点)を更新し、日本人初の6000点突破に意欲を見せた。レベルの高さが評価され、大会最優秀選手にも選ばれた。

●大会新記録も厳しい自己評価

 MVPに選ばれたのは、客観的なレベルの高さが大きな理由だった。5651点は昨年の日本リスト3位相当。自己記録の5807点とは156点差で、各種目を自己記録の時と比べても大きく崩れた種目はなかった(表参照)。

 だが田中は、自身の結果に納得していなかった。

「最低5700点に乗せたいと思っていて、800mで2分12秒を切れば、というところでしたが、気持ちの面でもまだ足りないところがありました。2日間を通して安定していないところが多すぎて、良い感じに動けてはいたのですが、それをパフォーマンスとして発揮できませんでした。混成競技は振れ幅が大きいとダメなので、確実に出すためにも土台アップをしていかないといけません」

 初日は悪くなかった。走高跳は1m61の自己タイで、向かい風だった200mでも自己記録(25秒42)に迫った。初日の得点は3196点で、「1日目は思ったよりもベストに近いペースでした」

 しかし2日目最初の種目(5種目目)の走幅跳が5m43で、勢いを止めてしまった。自己記録の5m71(+1.7)とは28㎝差。「2日目もアップの感じは良かったのですが、課題の走幅跳で上手く噛み合いませんでした。そこから流れも悪くなってしまって」

 5種目目終了時の累計得点は、自己記録時を109点下回った。十種競技と比べ七種競技は種目数が少ないため、1つの種目の取りこぼしをカバーするのが難しくなる。結果的にやり投と800mも自己記録に届かず、走幅跳で悪くなった流れを変えられなかった。

●混成競技のレジェンド、中村コーチのノウハウも吸収して

 しかし見方を変えれば、田中にはノビシロがある。中村明彦コーチの指導を本格的に受け始めたことも、今の状況改善に大きな力となりそうだ。中村コーチは十種競技で8180点の日本歴代3位記録を持ち、16年リオデジャネイロ五輪代表だったレジェンド的な存在だ。100m、400m、110mH、1500mの走種目と走幅跳に強く、12年ロンドン五輪は400mHで代表になった。

 その中村コーチも、東京選手権の結果に厳しい見方をしていた。

「全体的に練習でやってきたこと、今回やらないといけないことなどが、パフォーマンスにできませんでした。(客観的に見れば)ベストと比べてそれなりのところで推移してきています。失敗した試合が少ないのもすごいところですが、本人が目指しているのはもっと高い所です。その視点で見れば今の状態は良くありません」

 フィジカル面も一緒に進めるが、「技術を少し付け足して伸ばしていくこと、テクニックの前段階の混成競技独特のセオリー」というところも重要になるという。“混成競技独特”なことの一例として、フィールド種目が3回しか試技を行えないことを中村コーチは挙げた。「1本目にきちんと記録を残して、2本目、3本目で記録を伸ばしていくことが混成競技では求められます。1本目で記録を残すためには、(試技前に行う)公式練習を上手く活用することが重要になりますが、そういったところの取り組みは甘さがある」

 田中は至学館大を卒業して社会人3年目、スズキに入社2年目の選手。2人の拠点が違うので、中村コーチが毎日練習に立ち会っているわけではない。だが昨シーズン後の冬期練習後半から、「教えていただく回数が増えました」と田中。

「単独の技術的なポイントをやればいいというわけではなく、全部の種目は繋がっていて、だからこそ1つ1つの取り組み方がすごく大事だなってすごく思いました。まずは土台作りで、フィジカルを強くしていくところを軸として持っておくべきで、そこに各種目の重要なポイントを付けていければ、混成としても安定していけると思いました」

 中村コーチのノウハウも吸収し、田中のさらなる成長が期待できる。

●アジア大会へつながる競技会

 アジア大会は田中の出身地である名古屋市で、今年9月に開催される。

「やはり地元ということもあって、出たいですね。派遣設定記録の6019点は日本記録(5975点)や、日本人初の6000点突破になるので、そこを視野に入れてやっています」

 6019点の派遣設定記録を突破して6月の日本選手権に優勝すれば、その場で代表に内定する。派遣設定記録を破れなかった場合は、レベルや陸上競技全体の代表枠を考慮して選考される。

 今回の結果に関しては厳しい見方をした中村コーチだが、田中の今後には大きな期待をしている。

「(現役の)七種競技選手の中でも彼女が一番、6000点を取るチャンスがあると思います。本人も6000点を足掛かりにオリンピックに、と話しています。そこに向けてサポートしていきたい」

 混成競技は他の種目に比べ、全国トップクラスの選手が参加する大会が少ない。東京選手権は選手たちにとって、高いレベルで競い合う貴重な機会となっている。アジア大会選考の参考競技会に指定されたことで、他の種目よりレベルが高くなるのは当然かもしれないが、田中はMVPを受賞したことに感謝の気持ちを口にした。

「最優秀賞は狙っていたわけではありませんが、各種目で自分の記録を目指してやった結果で取れたと思うので、うれしく思います。来年以降も開催していただきたい大会ですし、今回の記録をどんどん更新して、胸を張って大会記録だと言える記録を出していきたいです」

 世界につながっていくきっかけを作ることも、東京選手権開催の目的の1つ。今年は最終種目の七種競技で、その部分が強く感じられた。

執筆者】 : 寺田辰朗         寺田的陸上競技WEB