【東京選手権2026レポート③】男子短距離3種目は東京選手権らしい戦い。個性的な高校生、大学生、社会人選手が持ち味を発揮

東京選手権は4月24~26日に駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で行われた。100mは増田陽太(八王子高2年)、200mは岸本醍知(東北大3年)、400mは北澤徹(TT legends)と、男子短距離3種目は高校生、大学生、社会人選手が優勝した。所属カテゴリーが違えば、成長過程も違う。男子短距離3種目に東京選手権さしさが表れていた。

●100mはレベルの高い高校生同士の争い

 大会2日目の男子100m決勝は、増田陽太(八王子高2年)がスタートから鋭い加速でリードを奪うと、後半も後続選手たちの追い上げを許さずに逃げ切った。優勝タイムは10秒64。向かい風1.9mを考慮すると、昨年9月に出した10秒48(+1.7)の自己記録以上の評価ができた。

 2位にジョセフ ニコラス陸都(足立新田高2年)、3位に小島璃大(立教池袋高3年)、4位に櫛野カリック(明星学園高3年)、5位にライト才音(松が谷高2年)と、4選手が10秒81~84の間にフィニッシュする接戦だった。5位までが高校生で、インターハイ東京都予選前哨戦の様相を呈したレースでもあった。

 増田は「予選はスタートが全然ダメでしたが、集中すれば修正できる感覚がありました。決勝はゾーンに入ることができて修正できました」と振り返る。修正方法については「ここっていうタイミングで1歩1歩、しっかり脚を動かすことですね」と説明した。

 小島は昨秋の新人戦では、10秒48の同タイムで増田を破った選手で、今年に入り10秒47(+1.6)と自己記録を更新している選手。増田は「都大会から10秒4台の選手と走ることで、上の大会の練習がしっかりできます。今後につながります」とハイレベルの争いに前向きな姿勢を見せる。

「インターハイの100mは入賞が目標ですが、優勝も狙いながらタイムを出すことができたら、優勝争いに加わることができるかもしれません。スタートでしっかりスピードに乗れたら、全国でも上の方たちと勝負ができます」

 レベルの高い高校生が揃った東京選手権が、絶好のシミュレーションになった。

●400mは茨城でクラブチームを経営する社会人選手

 大会2日目の男子400mは、岸本醍知との競り合いを制した北澤徹(TT legends)が優勝した。47秒43と47秒44。北澤の自己記録は城西大4年時の23年にマークした47秒29で、47秒43は自己3番目タイ、「社会人自己新」だった。

 城西大ではOBの佐藤拳太郎(富士通)も一緒に練習をしていた。北澤が4年時の23年には、佐藤は44秒77の日本記録(当時)を出した。「身近に拳太郎さんのような人がいて、もしかしたら自分も(同じような戦績を出す選手に)なれるのではないか、と思ったりもしました」

 だが現実的には、佐藤の背中は遠かった。北澤も関東インカレ2部では3位に入ったが、46秒台を出すことができず、有力実業団チームで競技を継続することはできなかった。それでも陸上競技に関わりたい気持ちが大きく、北澤は地元の茨城県でTT legendsを発足させて代表に就任した。

 TT legendsは「社会人チーム運営から、未就学児、小中学生が陸上競技を学べる教室などを開催」(TT legendsホームページから抜粋)する陸上クラブ。北澤はつくば市の外部指導スタッフや、母校の東洋大牛久高のコーチを引き受けたりしている。偉大な先輩との差はまだ大きいが、陸上競技への情熱では負けていない。

「社会人になって一番、練習ができています。今年は日本選手権初出場と46秒台を目標としています」

 東京選手権のレース展開は、北澤が先行したが岸本に一度逆転された。だが最後で抜き返して0.01秒先着した。「拳太郎さんと同じように、最後の100mをしっかり走ることを意識してやってきました。46秒台を出すためにも、後半を強化したい」。先輩の長所をしっかりと受け継ぎ、「3年後にはオリンピックを目指したい」と代表入りへの情熱も持ち続ける。

●200mは東京の進学校を卒業した学生選手

 大会3日目の男子200mは、前日の400mで2位だった岸本醍知(東北大3年)が21秒63(-0.9)で優勝した。400mの方が専門種目で、200mは軽い気持ちで出場した。

「400mはガチで勝つ気で走ったんですが、0.01秒差で負けて悔しかったですね。200mは『頑張れたらいい』くらいの気持ちでした。資格記録を見たら予選落ちかもしれないと思っていたので、優勝は自分でも驚いています」

 しかし200mが好調だったのは事実で、昨年まで21秒63(-0.9)だった自己記録を4月初めに21秒58(+1.1)に更新すると、今大会予選で21秒50(+0.1)をマークした。距離が短いサブ種目でスピードが向上した理由を、岸本自身はどう考えているのだろう。

「高校まではウェイトトレーニングはしていませんでしたが、大学に入ってがっつりやるようになり、体重も1年時と比べて6kg増えています。高校では走り込む、というほどの練習もしていませんでした。しかし動きづくりは、高校で教えていただいたものをそのままやっています。筋力がついたことで綺麗に乗り込めるようになりました。体重や力を上手く地面に伝えられるようになったのだと思います」

 芝中、芝高と6年間、同じ指導者のもとで競技に取り組んだ。高校時代の400mは51秒25が自己記録で、支部予選も勝ち抜くことができなかった。それでも大学で競技を続けたのは、「自分はまだ伸びている途中」と感じていたからだという。東北大チームの雰囲気も良かった。「全日本に出る人から趣味でやっている人までいて、のびのびとした空間」が岸本は心地よかった。47秒中盤の記録を持つ先輩がいて、練習で引っ張ってもらったことも成長につながった。

「中学では友人たちと陸上をするのが楽しかったのですが、中学・高校の6年間で走りの基礎を教えていただきました。大学では、高校よりも高いレベルで陸上競技の楽しみを知ることができました。(東京選手権会場の)駒沢競技場は中学・高校の6年間で数多く走った競技場です。地元で試合に出場すること自体、高校3年生以来なんです。その大会で結果を残せたことは嬉しいですね」

 5月の東北インカレは400mに絞って優勝を狙う。日本インカレは400mの準決勝、200mは順位よりも「21秒0くらいに持っていきたい」とタイムを意識して出場する。400mの記録は「日本選手権申込資格記録の46秒70」を目標としているが、理想とする前後半のタイムは「22秒4と23秒8で46秒2」を目指している。日本選手権参加標準記録の46秒25を意識した数字だ。「今回の200mの結果で、400mで目指す前後半タイムに近づけるスピードを確認できました」

 学部は工学部で大学院に進学する可能性が高いという。「陸上競技もその間は続けたいですね」

 中学・高校と東京でのびのび育ったロングスプリンターが、3年ぶりの地元での試合で大学での競技力アップを確認した。次の3年間でどんな成長を見せるのか、楽しみに見守りたい。

執筆者】 : 寺田辰朗          【執筆者のWEBサイト】 : 寺田的陸上競技WEB