国民スポーツ大会(青の煌めきあおもり国スポ・10月15~19日)に向けたトラック&フィールド種目の第一次強化合宿が、8月22~23日に北区のナショナルトレーニングセンターで行われ、選手17人、スタッフ13人が参加した。合宿の一番の目的は“東京選手団としてのチーム作り”。少ない日数ではあるが、寝食を共にしながら同じ場所でトレーニングをすることで選手同士間でも、選手とスタッフ間でも話がしやすい雰囲気になる。【Part 2】では成年選手と少年選手に一緒にトレーニングする様子や、通常とは違う指導者からアドバイスを受けることの利点などを紹介する。

●投てきブロックで行った“安藤メニュー”の狙いとは?
今回の国スポ1次合宿の一番の目的を、棟方拓也国スポ強化部長は「顔合わせ」としている。1泊2日ではあるが日常生活を共に行い、同じ場所でトレーニングをする。それが国スポ直前の2次合宿や、国スポ本番で効果が表れる。少年共通男子走高跳の清水怜修(明星学園高3年)は「知らない人たちの中に入ると、やっぱり不安な気持ちにもなります。話す相手がいるだけで安心感がある」と、コミュニケーションをしやすい状況を事前に作っておくことの重要性に言及した。

もう1つの目的は東京チームのスタッフや、日本トップレベルの成年選手の知見を生かすことだという。今回参加した男子成年110 mH代表の横地大雅(Digverse)は23年のブダペスト世界陸上代表で、今年の日本選手権は3位。男子成年円盤投代表の安藤夢(つくばTP)は二度の5位を最高に、日本選手権に毎年のように入賞しているトップ選手。
今回の合宿では投てきブロックの上田惺(駒場高3年。男子少年Aやり投)、新井里奈(南多摩中等高3年。女子少年共通やり投)、廣川泰輝(東京高1年。男子少年B砲丸投)の高校生3選手が、1日目は安藤とほとんど同じメニューを、2日目もウォーミングアップは同じメニューを行った。
安藤がトレーニングの目的を説明してくれた。
「1日目の前半は“身体操作”のためのメニューをいくつか行いました。背骨や股関節などの動きに着目したメニューで、筋肉だけでなく骨からの柔らかさを投げに生かす体の使い方をするためです。ストレッチもやりますが、ストレッチは筋肉を伸ばす系統の動きです。それよりも骨や、筋肉を動かす最初の部分である関節へのアプローチを入れてから、筋肉をほぐす方を行っていきます。身体の操作をわからないまま筋トレをして、力任せの投げをしてしまうとケガにつながることが起きやすい。そうじゃないよ、というのを筋肉が弱い段階で知れば、その感覚を体が成長しても感じられるんじゃないか、という視点のトレーニングです」
安藤によれば「それほど息が上がるトレーニングではない」が、高校生3選手は慣れないメニューに汗だくになって取り組んでいた。
●横地は他チームのメニューでもポイントを説明
ハードルブロックは、2日目は個々のメニューで練習したが、1日目は3選手全員が同じメニューを行った。成年の横地が、高校生の藤原啓寬(駒場東邦高3年。男子少年A300mH)と淺内湧一朗(日大豊山高2年。男子少年共通110mH)に説明をしたり、見本を見せたりしながら練習を進めていた。聞けば横地が考えたメニューではなく、淺内が日大豊山高で行っているドリルだという。「基本的なことはどのチームでもそれほど変わりませんから」と、ユーモアを交えながら高校生2人に話しかけていた。

合宿にはハードル担当のスタッフとして、東京高の能登谷雄太コーチも参加していた。昨年110mHの高校記録を樹立した古賀ジェレミー(順大1年)を、3年間指導したコーチである。
「僕も言葉足らずのところがあるので、能登谷先生に上手く噛み砕いて話していただいたり、意識すべきところをより詳しく説明していただいたりして、僕が実際に動作をやってみせたりしました」
世界陸上日本代表選手と、高校記録保持者を育てたコーチが協力して練習をサポートする。高校生にとっては贅沢な時間だったのではないか。
●大森コーチからアドバイスを受けた増田の感想は?

投てきブロックもハードルブロックも、選手たちは通常の練習とは異なる指導者からアドバイスを受けた。仮に同じ動きを指示される場合でも、言葉が微妙に違ってくることもあるだろう。いつもとはまったく別の視点でのアドバイスを受けることもある。選手に戸惑いはないのだろうか。
男子少年A100m代表の増田陽太(八王子高2年)に、クラブチームAFTC(アスリートフォレスト トラッククラブ)の指導者である大森盛一コーチが熱心にアドバイスをしていた。
大森コーチは現役時代、96年アトランタ五輪400m代表で、4×400mRでは4走を務め当時の日本記録で5位に入賞した。引退後に陸上競技から離れた仕事をしたりもしたが、08年にクラブチーム(アスリートフォレスト トラッククラブ)を設立。小学生のサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)を指導したこともある。
「増田君がスタートの感覚が良くないと、アドバイスを求めて来たんです。普段の動きを見ていないので、過去の動画も見させてもらってアドバイスをしました。今日の彼の動きを見ると1(歩目)、2、3、4、5のリズムが全部途切れ途切れなんです。強く、大きく、速く出たい意識が強くて、一歩一歩がつながらなくなっている。それで良い感覚ではないのでしょう。そこを滑らかにつなげられるようなアドバイスをしました」


八王子高は渡辺大輔監督が指導をしている。渡辺監督も現役時代に00年シドニー五輪代表だったが、専門は走幅跳だった。日大、ミズノを通しての先輩である大森コーチを信頼しているが、選手からすればいつもとは違う視点のアドバイスになる。
増田はどう感じたのだろう。
「途切れ途切れなのは、自分の中でも感じていたことです。一歩一歩、ガシガシ行ってしまう感じで、流れがつかめていないのだと、大森コーチのアドバイスで明確になりました。色々試してスピードに乗れる感覚を持てる動きができたので、本当に良かったと思います」
別のスタッフからも、東京の国スポ代表になるレベルの選手であれば、いつもとは違う指導者からのアドバイスを受けて混乱することはない、という説明があった。大森コーチは女子少年A100m代表の吉永ひまり(明星学園高2年)にもアドバイスをしていたが、「高校での教えられ方もあるので、私からのアドバイスを練習に取り入れられるかわかりませんが、ちょっとしたきっかけになって普段の練習の中でも上手く生きて、練習が良い形で回っていったらいい」という思いで接している。

少年選手だけでなく成年選手も、いつもと違う指導者からの意見を参考にしていた。横地は「能登谷先生から1台目までの入りのアドバイスをいただきましたが、そういうことのための合宿だと思っています」と言う。
棟方国スポ強化部長はこのようなコミュニケーションを多くできることが、少ない日数でも合宿することの意味だと強調する。
「東京チームのスタッフは贅沢と言っていいメンバーなので、ワンポイントでも声をかけてもらうことで、選手たちはヒントを得ることができます。少年選手たちは、先輩の成年選手たちから話をしてもらうだけで、練習に意欲的になって成長することができます」
全日本実業団陸上(9月11~13日:たけびしスタジアム京都)では成年選手2人が好成績を残した。横地は8月に2連敗したライバルに競り勝って優勝し、国スポに向けて自信を得た。安藤は7位と日本選手権の11位から順位を上げ、優勝者との記録差も10mから5mへ縮めている。
2人の日頃の頑張りの成果だが、国スポ合宿で気づいたことが好成績につながった可能性もなくはないだろう。国スポ合宿では少年選手、成年選手、スタッフが話しやすい雰囲気の場を持てる。その一番の成果は10月の国スポで現れる。
【執筆者】 : 寺田辰朗 寺田的陸上競技WEB

