
第110回日本選手権が6月12~14日、名古屋市のパロマ瑞穂スタジアムで行われた。男子5000mでは森凪也(Honda)が13分22秒41で優勝。アジア大会派遣設定記録(13分14秒36)も突破済みで、9月に名古屋で開催されるアジア大会代表に決定した。森は24年、25年と日本選手権で以下のように連続2位。
24年:2位・13分16秒76<1位・伊藤達彦(Honda)・13分13秒56>
25年:2位・13分38秒56<1位・井川龍人(旭化成)・13分37秒59>
26年:1位・13分22秒41<2位・中野翔太(Honda)・13分22秒56>
過去2回と比べどんな部分が成長したのだろうか。
●2段階スパートができた背景は?
勝負を決めたのは森の“進歩したスパート”だった。
残り200mで森がトップに立った。昨年の優勝者の井川龍人(旭化成)が最後の直線で追い上げ始めたが、残り80m付近で森がもう一度スパート。ラストの強さに定評がある井川との差を広げ、後輩の中野翔太(Honda)の追い上げも退けてフィニッシュした。
「ラスト100mのヨーイドンだったら、中野と井川君の方が速いと思います」
そうした相手に勝つための方法を、この3シーズンで森は身につけてきた。
「残り200mから行っておかないと、というところでスパートしましたが、もう一度、残り100mか80mくらいで行きました。スパートを2段準備していたんです。去年は1段しかなくて、井川君に抜かれた後は反応できませんでした」
2段階のスパート力を付けられた要因は、「ベースのスタミナと、今年は特にスプリントの強化」だった。スプリント強化のメニューは距離ではなくタイムで設定し、「20秒めちゃくちゃ速いペースで走り、10秒リカバリを、(しっかり休んで行う)レペテーションと同じくらいのスピード」で行った。
そしてメンタル面も重要な役割を果たしたという。
「去年はマークされる立場が初めてで、僕がポジションを後ろから上げて行くとみんな付いてくるようなレースが嫌な感じがありました。前に誰もいなくて視界が広がっていることは、ちょっと怖さもありますが、勇気を持って出ないと勝てません。レース中も冷静でしたし、レース前の心持ちもすごくよかった。去年よりメンタルの部分もちょっとは向上していたと思います」
トレーニングやフィジカル面、経験的な部分の成長が、最終的には自信や余裕というメンタル面の強さになる。日本選手権3年目の森に、それがはっきりと現れていた。
●ピークアウトしなかった5月の3連戦
世界ランキングを上げるためには日本選手権だけでなく、ゴールデングランプリ(GGP)などポイントの高い試合で上位に入ることや、記録を出すことも重要になる。今年は5月の3レースで「地力が上がっている」ことを実感できた。
2年前の日本選手権での13分16秒76は自己新だったが、先輩の伊藤達彦(Honda)に3秒20もの差を付けられた。そこで全力を使い果たし「直後に発熱してしまって、戻すのに1カ月くらいかかった」という状態だった。
昨年は4月の金栗記念5000mで13分15秒07と自己記録を更新。5月中旬のGGP3000mでは7分41秒58の日本歴代2位で4位(日本人1位)、5月末のアジア選手権5000mでは13分25秒06で3位(同)だった。昨年時点では好成績と言えたが、「5月に重要な2試合があって、ピークアウトしてしまった感覚があった」と言う。
今年は5月頭のゴールデンゲームズinのべおか5000mで13分14秒18と自己記録を更新。中旬のGGP3000mでは7分38秒98の日本新で優勝し、5月末のMDC1500mでは3分36秒53の日本歴代3位で2位。GGP後には、「今年も延岡とGGPで高いレベルで2本揃えられたので、ピークアウトしないで持って行けるような、去年とは少し違ったアプローチで日本選手権までの4週間を考えています」と話していた。
GGPの2日後には高地合宿をスタートさせ、10日間、低強度の練習を中心に行なった。それでも1500mで日本歴代3位で走れたのは、「4月に高強度の負荷のトレーニングをしっかり行いました。合宿が低強度でも集中力を保ちながら、レースに出ても高いパフォーマンスができるような状態を常に作っておく。MDCはそれを体現できたレースでした」
そのMDCを走った1時間半後には、トラック練習を行ったという。「1500mを走ると負荷は強いのですが、ボリュームが少し足りません。普段からレースは強度の高い練習、という位置づけを持ちながらやってきました」
アジア大会まで3カ月。「ここで疲れが出て練習できなかったりしたら、アジア大会まで良い状態で持って行けません」。その心配は、今年の森なら杞憂に終わるはずだ。
昨年のアジア選手権では13分25秒06で3位。優勝したG・シン(インド)とは0.29秒差だった。森の日本選手権での成長を見れば、十分に逆転できる。

写真はMDC1500mスタート前とレース中の森
【執筆者】 : 寺田辰朗 寺田的陸上競技WEB

