【全国中学駅伝に挑む東京勢】男子のKJRLEGACY、女子の松江五中が出場。チームワークやあきらめない走りなど、両チームの戦いぶりに注目

 第33回全国中学駅伝が12月14日、滋賀県希望が丘文化公園で開催される。男子は6区間18km、女子は5区間12kmのコースに、それぞれ48チーム(47都道府県代表と地元枠1チーム)が参加して行われる。東京都からは11月8日の東京都中学駅伝に優勝した男子のKJRLEGACY、女子の松江五中が参加する。目標やチームの特徴、どんな走りを見てほしいかなどを、両チームの指導者に取材した。

●東京都大会と同様に前半で好位置につけるレース展開を

 KJRLEGACYは東京都大会で、力を十二分に発揮して優勝した。

 1区(全区間3km)の楠本陸登(3年)が区間賞選手と11秒差の3位でスタートすると、2区の横田てら(1年)が区間賞の走りで1位に躍り出た。「1、2区でトップに立ちたかった」とKJRLEGACYの加藤秀樹コーチが想定した通りの展開に持ち込んだ。

 3区の野口叶太(2年)も連続区間賞で、2位チームとの差を4秒から32秒に広げる快走を見せた。4区の宮沢悟史(1年)が区間7位で2位に後退したが、1位チームとは5秒差で踏みとどまった。5区の丸本楓也(3年)が区間賞でトップを奪い返しただけでなく、2位チームに40秒差をつける殊勲の走り。そしてアンカーの6区・山岸胡太郎(3年)が、区間2位の走りで2位チームに41秒差として逃げ切った。

 加藤コーチは全国大会の目標として「20~30位台」を考えているが、目指しているのは東京都大会と同様に、前半で好位置を確保する駅伝だ。「どの駅伝も同じかもしれませんが、特に小中学生の駅伝を指導していて大事だと感じるのは、前半でしっかり前に行って、中盤で粘るレース展開をすることです」

 東京都大会1区を走った楠本は、800mで全日本中学選手権に出場した選手だが、駅伝で走る距離は男子は全区間3kmである。「楠本が得意とする距離ではありませんが、安定感があります」と加藤コーチ。東京都大会で2区を走った横田の調子が上がれば、横田の1区起用の可能性もある。「1区を20位前後でスタートできれば、30位以内の可能性も出てきます」

 テレビ放映に映ることがあれば、KJRLEGACY選手たちが「頑張りどころ」でどんな走りをしているかに注目してほしい。「前にいる選手を追いかける気持ちで走っているか、抜かれたときに抜き返す気概を持って走っているか。タイムも重要ですが、そういった頑張る姿勢を見せてほしいと思っています」

 下級生に有望選手が多いことも、今季のKJRLEGACYの特徴だ。1、2年生が区間上位で走ることができたら、来年以降、全国大会で入賞を狙うチームへの成長が期待できる。

●後半で順位を上げそうな松江五中

 女子代表の松江五中も東京都大会で、チームの特徴をしっかりと発揮した。ただレース展開的にはKJRLEGACYとは対照的で、後半で逆転するタスキリレーを見せた。

 1区(3km)の星郁羽(2年)が区間賞選手と1分23秒差の8位でスタートしたが、2区(2~4区は2km)の丹下さなえ(2年)が区間3位でチームを3位に浮上させると、3区の加藤芽衣(1年)が区間賞の走りで2位に浮上。3区終了時点でもトップと38秒差があったが、4区の小川さくら(3年)が逆転してトップに立った。区間2位を26秒も上回る快走で、2位チームに6秒差をつけた。そして5区(3km)のアンカー、伊藤莉愛(1年)が区間3位と好走して2位に29秒差で初優勝を飾った。

 前半でリードを奪ったり、上位に付けたりするのが駅伝の鉄則だが、松江五中は3位だった24年の東京都中学駅伝でも、1区の19位から徐々に順位を上げていた。チームとして、「関東大会に出よう」(千草広也先生)という目標だったことに加え、個人で東京都大会入賞レベルの選手がいないことも理由だった。

 全国大会の目標も控えめで、「最下位にならないようにしよう」と選手たちと話しているという。

「今年の東京都のレベルは高くないと感じています(優勝タイムは過去2大会より2分以上低下)。都大会は相手のタイムも把握できていましたし、風向きのことも考慮して、前に出る位置などを事前に考えました。しかし全国大会は初出場で、自分たちがどのくらいの位置にいるのか、正直わかりません」

 最下位もある、という前提でスタートし、頑張っただけ順位を上げていく。レース展開的にも都大会と同様に、後半で順位を上げていくようなオーダーを組むだろう。千草先生が選手に期待するのは、「今までの練習の成果を出す走り」だ。

「どこの学校に勝ちたいとか、何位になりたいとかではなく、今まで支えてくれた人たちへの感謝の気持ちを表す走りをしたいと思っています。部員が多いので、メンバー争いに敗れた子たちのことも思って走ってほしい。(具体的には)ベストタイムを出す走りです。それに尽きます」

 自己ベストを狙う選手は走りに躍動感が出るし、表情もキリッとしている。松江五中は後方集団を走ることになるかもしれないが、選手たちの生き生きとした走りが見られるはずだ。

●中学生の駅伝とは?

 KJRLEGACYは23年度から文科省が進めている「部活動の地域移行」に伴い、中体連主催大会にクラブチームとしての参加が認められるようになった。KJRLEGACYは約90人の小中学生が参加するクラブで、起伏のあるコースもとれる荒川河川敷を拠点に活動している。加藤コーチが学校や保護者と連携し、複数のスタッフ(クラブのOB、OGが中心)で安全面に配慮して指導をしている。

 クラブ運営の目的ややり甲斐を、加藤コーチは「レベルは様々ですが、頑張って記録を伸ばしてくれたら嬉しいですね。入ってきたときは弱かった子が、卒業するときには強豪高校から声がかかるなど、やったことが形になって、人から認められたら素晴らしいことです」と考えている。

 KJRLEGACYの女子は、足立十一中として出場した21年の全国中学駅伝で8位に入賞した。これは東京勢の過去最高順位だった。小学校の駅伝でも全国3位に入った実績がある。

「目標に対して子どもたちが、どこまで本気になれるかで成績は変わってきます。特に駅伝は自分だけではなく、人のために頑張ることもできる競技です。子どもたちができると信じて頑張ったときには実際、すごいパワーが出たことがありました。技術的な指導もしていますが、子どもたちの心が動くような指導を心がけています」

 男子のKJRLEGACYが目指すレース展開は、前述のように前半で好位置に付けることで、現在の各選手のレベルでは、中盤以降は粘る走りになる可能性が高い。だが選手たちが、想定以上の力を発揮することがあるのも駅伝である。中盤以降で順位を上げる駅伝ができたときは、大健闘と言っていいだろう。

 中学駅伝は高校駅伝と違い、有望小学生をスカウトして入学させることはできない。必然的に長距離が盛んで、小学生がランニングに親しむ機会が多い地域が強くなる。その点で東京都は、全国的に見て長距離が盛んな地域ではないが、人口が多いことで潜在的な力がある。加藤コーチのように熱心な指導者が現れれば、全国レベルで戦うことができるようになる。

 女子の松江五中は22年は、東京都高校駅伝に出場していなかった。しかし千草先生が22年に顧問を任されると、陸上競技部が結果を出し始めた。「部員のほとんどが幽霊部員で、練習してもおしゃべりばっかりしていました」。千草先生が責任をもって指導をしているが、外部コーチにトレーニングや技術指導をお願いして「二人三脚で」立て直してきた。

「昔の運動部によくあった叱ったり、罰練習をさせたりする厳しい指導ではなく、子どもたちが自然と走りたくなる環境作りをしてきました。やる気のある選手が何人かいたので、その子たちにしっかりした練習方法を教えてあげて、結果が出始めるとやる気のある子が増えていきました。エースはまだ生まれていませんが、全体でレベルアップしてきました。都大会も平均値で勝ったと思っています」

 松江五中は都大会で23年29位、24年3位、そして今年優勝と、チーム全体が大きく力を付けているのは明らかだ。都大会同様に前半は後方でレースを進めることになるかもしれないが、選手層の厚さが表れる後半で、順位を上げる展開が期待できる。

 そして全体でレベルアップしてきた中でも、都大会4区区間賞の小川や、5区の伊藤は力が付いてきた。松江五中の選手が終盤区間で、何人も抜いて行く駅伝が見られそうだ。

KJR・L・足立十一中

松江五中

執筆者】 : 寺田辰朗          【執筆者のWEBサイト】 : 寺田的陸上競技WEB