【国スポで躍動した東京勢】成年女子走高跳で森﨑が1m85の学生歴代6位タイで快勝! 高校の先輩の小林、世界陸上代表の髙橋の背中を追って成長

 第79回国民スポーツ大会の陸上競技が10月3~7日、滋賀県彦根市の平和堂HATOスタジアムで開催された。大会4日目の成年女子走高跳では森﨑優希(日女体大2年)が1m85の日本歴代11位タイ、学生歴代6位タイの快記録で優勝した。森﨑は1m82が3回目のクリアで、その高さを1回目に跳んだ津田シェリアイ(大阪・築地銀だこ)が優位に立っていた。しかし自己記録を3cm上回る1m85は、森﨑だけが2回目に成功し優勝を決めた。前日(大会3日目)の成年女子棒高跳には学生記録保持者で、明星学園高の1学年先輩の小林美月(日体大3年)も出場。今大会では8位だったが、小林の今季の活躍が森﨑のモチベーションになっている。

●走高跳選手としての資質の高さを見せた森﨑

 森﨑の1m85は助走のスピードと技術、踏み切り時の技術などが完璧だった。

「助走最後の内傾のところがしっかり駆け上がれて、腕の引き上げもしっかりできました。春先に助走の歩数やスタートを色々変えましたが、それは元に戻して、吉田孝久先生(日女体大監督)に内傾をもう少し深く入るアドバイスを夏にいただいて、そこを重点的にやって助走が良くなりました」

「クリアランスの上手さ」(吉田監督)は元からの特徴だが、それに加えて今季は、特に助走の改良に成功してからは、「助走スピードが上がり、踏み切りの力が大きくなっています」と吉田監督。

 技術面の成長とともに、メンタル面の成長も大きいと森﨑自身は感じている。

「以前はバーが上がるとすごい高さだと構えてしまっていましたが、今は挑戦する気持ちで、構えず自由にやっていると自分で感じられています」

 森﨑のパフォーマンスには、メンタル面と技術面が影響し合っている。助走スピードが上げられた理由として、「気持ちが入ると動けてきて、助走スピードも上がります」と話している。「その中でもしっかり、腕振りを合わせられたのは成長かな、と思っています」

 1m88は3回とも失敗したが、「思った以上に浮いたので、自分でも覚醒したな、と思います。1m90の手応えもありました」と森﨑。身長は167cmで走高跳選手としては高くないが、日本人で初めて1m90に成功した八木たまみは、164cmの身長で頭上26cmのバーを跳んでいた。森﨑にも可能性は十分ある。

 自身も走高跳の元日本記録保持者である吉田監督は、「体はちょっと小さいですけどスピードもパワーもあります。巧緻性があって、体の扱い方も上手く、勝負強さもある。走高跳に必要な要素を兼ね備えた選手です」と森﨑のことを高く評価する。この種目で5cmの自己記録更新は簡単なことではないが、シーズン終盤に良い内容の試合ができれば、良い感触や、一段高い技術的な課題を持って冬期トレーニングに入って行ける。国民スポーツ大会の森﨑は、来季の飛躍が期待できる跳躍だった。

●“東京の女子跳躍”の勢いを森﨑が体現

 森﨑は刺激を与えてもらっている選手として、2人の先輩の名前を挙げた。1人は同じ走高跳の選手で今年2月に1m92と、日本人として12年ぶりに大台を跳んだ髙橋渚(センコー)、もう1人は女子棒高跳学生記録(4m31)保持者の小林美月(日体大3年)である。

 小林は森﨑にとって、明星学園高の1学年先輩にあたる。高校時代はチームメイトとしてともに全国大会を戦い、22年のインターハイは2人とも優勝した。その後チームは別々になったが、数多くの重要試合で2人揃って3位以内という成績を残してきた。そして今季ついに、小林が日本選手権に4m31の日本歴代6位タイ、学生記録学生新で優勝した(森﨑は1m78で3位)。

「美月先輩が日本選手権で大幅な自己ベストを跳ばれたので、自分も頑張ろうと思うことができました。そうしたら8月に1m82のベストを跳ぶことができました。自分は美月先輩を追う感じで頑張れているので、これからも追いつく気持ちでやっていきます」

 しかし今大会の小林は3m80で8位と、不本意な結果に終わった。2週間前から練習でも「踏み切れない」(小林)ことが多くなっていたという。理由ははっきりしていないが、助走の狂いから踏み切り位置が、遠くか近くになり過ぎていた可能性がある。

 国民スポーツ大会(国体)の小林は、高校3年時に成年種目に出場した22年大会の5位(3m80)が最高で、大学入学後は23年7位(3m80)、24年11位(3m70)と低空飛行が続いている。苦手意識が今大会でも影響していた可能性もあることを、小林自身が認めている。

「落ち着いて焦らずに行こうとは思っていましたが、振り返ってみれば、冷静な試合運びはできていませんでした。気持ちを上手くコントロールできなかったことが、この結果につながっているのかな、と思います」

 対照的に森﨑は高校2年時に優勝すると、23年(少年共通)と24年(成年)は連続2位。そして今年の自己新での優勝と強さを発揮している。国スポでは森﨑が頑張る形になっている。

 森﨑のもう1つのモチベーションが、髙橋渚の存在だ。髙橋も森﨑と同じ生粋の東京選手。記録や実績では髙橋が上だが東京世界陸上に出場した選手は、10月頭の国民スポーツ大会にコンディションを合わせることが難しい。森﨑は「髙橋さんの代わりに(東京代表として)国スポに出ている」という意識があった。

「1m85を跳ぶ前に、自分は渚さんになり切ろうと思って、渚さんのことを思い出してやってみたら跳べたので、自分のパワーになったと思います。世界陸上はテレビで見ていましたが、世界の舞台でもいつも通りに(自己セカンド記録タイの1m88を)跳べる渚さんは本当に素晴らしいと思います」

 森﨑が今大会で跳んだ1m85は今季日本2位タイの記録。終わってみれば“代わり”ではなく、出場していれば優勝が期待された髙橋と“同じ役割”を果たした。

 女子棒高跳は日本記録(4m48)保持者で、東京世界陸上に出場した諸田実咲(アットホーム)も東京陸協登録選手。走高跳と棒高跳の垂直跳躍種目(Vertical jumps)は、東京チームを牽引する種目になっている。今年の皇后杯の東京チームは14位と、残念ながら8大会続けていて8位以内に入れなかったが、来季以降の巻き返しが十分期待できる。

執筆者】 : 寺田辰朗          【執筆者のWEBサイト】 : 寺田的陸上競技WEB