【国スポで躍動した東京勢】少年男子Aハンマー投で北が逆転V! 少年男子B砲丸投の原は3位。投てき2選手の対照的な種目選択

 第79回国民スポーツ大会の陸上競技が10月3日~7日、滋賀県彦根市の平和堂HATOスタジアムで開催された。大会初日の少年男子Aハンマー投では北翔太(保善高3年)が5回目に64m39を投げ、それまでの5位から逆転してトップに立つと、6回目に64m60に記録を伸ばして優勝した。大会4日目の少年男子B砲丸投では原裕斗(八王子高1年)が、3回目の17m04でトップに立ったが、6回目に2選手に逆転されて3位。2人の種目選択への考え方の違いに、多くのタイプが育つ東京チームらしさが感じられた。

5回目で逆転優勝。高校入学時の目標を高校最後の全国大会で達成した北

 少年男子Aハンマー投は、“50cm未満”の攻防が続く激戦だった。1回目に米崎暖翔(滋賀・滋賀学園高3年)が63m91でリードすると、2回目に清水蓮大(兵庫・社高3年)が64m01でトップに。ベストエイトに入った段階で北翔太は、3回目の62m88で4位だった。5回目の64m39で逆転してトップに立ったが、清水との差は38cmしかなかった。

 6回目に試技順が先の北が64m60に記録を伸ばしたことが、結果的に優勝を決めた。試技順が最後の清水が64m55と北の5回目を上回ったのだ。3位だったインターハイの雪辱を、終盤の逆転劇で達成した。

「インターハイ、U20日本選手権と連続3位で来たので、ここで1位を取ることができてめっちゃ嬉しいです」

 胸のすくような勝利だったが、北自身は会心の勝ち方とは感じていなかった。

「前半は投げていこう、投げていこうとして(焦って)、ターンがあまり加速できませんでした。後半は欲をかかずにリズムを意識して、形を決めることを考えて投げました。5、6投目は良いはまり方をして飛んだと感じましたが、それでも自己記録は更新できなかったので、はまり切らない要因が何かあったのだと思います」

 記録がインターハイ(64m76)より悪かったのは、気象コンディションなど外的環境によるものだろう。他の選手も同様に記録を少し落としている。北自身はインターハイ後の取り組みを「リズムや筋力アップなど総合的に向上させるように頑張ってきました。ハードルを使ったジャンプトレーニングも行いましたし、クリーンは自己新の115㎏を挙げられました。それを国スポで発揮できたのだと思います」と振り返った。

 長期的な強化スタイルも独特だ。これは保善高のスタイルということになるが、通常の練習ではハンマーを投げない。

「保善に投げる場所がないので、通常の練習では回すだけで投げないんです。投げられるのは1カ月に一度くらいですが、基礎が確立できていなければ(遠くに)投げられないので、回転運動の基礎をしっかりやってきたことがよかったと思います」

 ハンマー投を始めたのは、大半の選手がそうであるように高校入学後である。

「中学では砲丸投の記録も大したことなくて、体がただ大きいだけの選手でした。周りの方が全然強かったのですが、ハンマー投は高校から始まるのでスタートラインはみんな一緒だと考えて。それなら日本一にもなれるかな、と思って始めました。本当に取ることができて、そこは素直に嬉しいです」

 支部予選などでは砲丸投、円盤投にも出場しているが、ハンマー投に集中し、入学時の目標を高校最後の全国大会で達成した。北にとっては思い出に残ると同時に、今後の競技生活の糧となる試合になった。

●昨年の中学チャンピオンの原は、逆転負けも来季は3種目に意欲

 北とは対照的だったのが、少年男子B砲丸投の原裕斗である。3回目の17m04でトップに立ったが、最終6回目の試技で2人に逆転されて3位に終わった。中学時代の戦績も対照的で、全日本中学選手権とU16競技会で砲丸投の全国タイトルを取っていた。今年のインターハイでも1年生最高順位の8位に入っていた。原が同学年選手に負けたのは中学2年以来だった。

 ショックが小さいはずはない。それでも「17m後半を投げないと優勝できないと思っていましたし、(6回目に逆転されても)自分なら(再逆転)できると思っていました。持っている力は全部出したので、悔いはありません。ただ、普段は周りの選手をあまり気にせず、自分の投げをちゃんとするだけだと思って投げていますが、今回は2人に超えられて焦ってしまったところもありました」としっかりコメントしてくれた。

 種目選択も北とは対照的で、中学時代に日本一になった砲丸投を頑張っていることに加え、円盤投とハンマー投にも取り組んでいる。円盤投でも昨年の佐賀国民スポーツ大会で18位に入っているが、砲丸投に比べると成績は劣る。「来年は砲丸、円盤、ハンマーの3種目でインターハイに出場して、2種目は7、8番でもいいんですが、1種目はメダルを取りたいです」と意欲を見せる。

 投てき種目で共通する動きもあるが、種目特性は異なる。限られた時間で3種目に取り組むのは難しい部分も多いだろう。それでも3種目に取り組む理由を質問すると「目立ちますから、どれも強かったら」と、高校1年生らしい無邪気な答えが返ってきた。

 高校に入ってハンマー投に集中して戦ってきた北と、高校に入って投てき3種目に本気で挑戦し始めた原。東京の投てき選手2人が、国民スポーツ大会で強烈な個性を見せた。

執筆者】 : 寺田辰朗          【執筆者のWEBサイト】 : 寺田的陸上競技WEB