今年の陸上競技日本一を決める日本選手権は7月4~6日、東京・国立競技場で男女34種目が行われる。一番の焦点は9月に同じ国立競技場で開催される東京2025世界陸上の代表選考という点だ。参加標準記録突破選手が3位以内に入れば、その場で代表に内定する。標準記録を突破できる日本人選手は多くはないが、日本選手権で3位以内に入れば、8月27日以降にRoad to Tokyo 2025(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)の順位で代表入りできる。日本選手権で代表争いに加わりそうな東京陸協登録選手を紹介していく。
●【男子短距離】男子100mに複数の9秒台スプリンター。200mで日本人初の19秒台を狙う鵜澤
男子短距離種目の東京勢は強力だ。
中でも日本最速を決める男子100mには、9秒95の日本記録を持つ山縣亮太(セイコー)、9秒96の日本歴代2位を持つサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)、9秒98の同3位タイを持つ桐生祥秀(日本生命)と揃った。サニブラウンは東京陸協登録ではないが、東京の高校(城西高)出身の選手である。
近年の戦績ではサニブラウンが頭1つ抜け出ている。22年から昨年まで3年連続9秒台をマークし、22年オレゴン世界陸上、23年ブダペスト世界陸上では決勝に進出した。今季は10秒3~4台しか出していないが、大舞台での強さは誰もが認めるところ。サニブラウンは世界陸上参加標準記録の10秒00を、適用期間の昨年8月以降に破っているため、日本選手権で3位以内に入れば世界陸上代表に内定する。
山縣は22年、24年とケガに苦しんできたが、6月28日の広島県選手権で10秒12(+1.7)と復調してきた。桐生は追い風参考ながら4月末に10秒06(+2.7)で走り、5月の静岡国際に優勝。悩まされてきたアキレス腱痛への不安がなくなり、近年やっていなかったジャンプトレーニングにも取り組んでいる。
最大のライバルとなるのは栁田大輝(東洋大4年)か。5月にゴールデングランプリ、アジア選手権と国際大会で2連勝し、ゴールデングランプリでは10秒06(+1.1)の今季日本最高をマークしている。東京勢との激しい戦いになりそうだ。
男子200mでは鵜澤飛羽(JAL)が今季絶好調だ。5月の静岡国際の予選で20秒13(+0.8)をマークすると、決勝では追い風参考ながら20秒05(+2.1)と日本記録の20秒03に迫った。5月末のアジア選手権にも20秒12(+0.8)の日本歴代4位で2連勝した。
すでに標準記録の20秒16は突破済み。3位以内に入れば代表に内定するが、日本人初の19秒台で世界陸上に勢いをつけたい。
男子400mには日本記録の44秒77を持つ佐藤拳太郎(富士通)と、日本歴代5位の45秒04を持つ中島佑気ジョセフ(富士通)が出場する。佐藤はRoad to Tokyo 2025の順位が、7月2日時点で出場人数枠の48人以内に入っていないが、日本選手権で14ポイントアップができれば枠内に入る。
中島は今季はレース出場がなくRoad to Tokyo 2025で出場権を取るのは難しい。44秒85の標準記録突破を目指すだろう。
●【ハードル】井之上は男子400mHで標準記録突破済み。女子100mHの田中の代表入りが有力
男子400mHの井之上駿太(富士通)が、48秒46を昨年9月の日本インカレ準決勝でマーク。標準記録の48秒50をただ1人突破済みで、3位以内に入れば代表に内定する。
だが今年の静岡国際は3組5位(50秒13)、ゴールデングランプリは6位(日本人3位・49秒38)、アジア選手権は4位(50秒02)とぱっとしない成績が続いている。標準記録突破者は入賞すれば、8月末に代表が決まる可能性もあるが、少しでも早く内定を決めたいところ。課題の勝負弱さを克服するチャンスでもある。
男子110mHでは高校生の古賀ジェレミー(東京高3年)が、代表経験選手たちに挑む。インターハイ南関東予選で13秒45(+0.1)の高校新をマーク。出場資格記録では9番目だが伸び盛りの高校生が、本番で大きく記録を伸ばす可能性はある。目標とする日本選手権3位以内も、ないとは言い切れない。
3位以内に入れば、適用期間の8月24日までに参加標準記録の13秒27を破ることで、世界陸上代表入りができる。
女子100mHでは日本記録の12秒69を持つ福部真子(日本建設工業)と、12秒81の日本歴代2位を持つ田中佑美(富士通)が東京陸協所属選手。
田中がRoad to Tokyo 2025で25位(出場枠40人)と好位置に付けている。12秒73の標準記録を破ればベストだが、3位以内に入れば8月末に代表入りできる状況だ。
福部は今季の出場試合数が少なく、Road to Tokyo 2025の順位が圏外になっている。複数ラウンドで加点できる日本選手権の結果次第で、40位以内に浮上する可能性もゼロではないが、田中と同じで標準記録を破ることが最良の道になる。
100mハードルでは東京高出身の島野真生(日女体大院2年)が、6月の日本インカレで13秒02(-1.8)の学生記録をマーク。学生記録が向かい風だったことを考えれば、一気に12秒8台を出しても不思議はない。
女子400mHで昨年まで日本選手権4連勝中の山本亜美(富士通)が、今季から東京陸協登録になった。5連勝と、56秒57の東京記録更新の期待がかかる。
●【中・長距離】女子5000mの廣中に2種目代表入りのチャンス
廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)は4月の日本選手権10000mで優勝し、代表入りは確実の状況だが、5000mでも可能性がある。出場枠は42人で現在42番目の選手は3大会平均が1153ポイント。廣中は1138点だが、日本選手権の結果次第で42位以内に浮上する。
また廣中は、21年東京五輪5000mで当時の日本記録(14分52秒84)で走り、10000mで7位に入賞した。思い出の国立競技場で2種目代表入りに挑戦する。
56人出場枠の女子1500mでは、木村友香(積水化学)がRoad to Tokyo 2025の54位(1140ポイント)につけている。この種目のポイントは5大会の平均値で決まるが、木村の4番目と5番目のレースはポイントが低い。日本選手権は田中希実(New Balance)が絶対的な優勝候補だが、木村は2位でも4分10秒台前半のタイムで走れば、平均ポイントが大きく上がる。
女子3000m障害の西山未奈美(三井住友海上)も廣中と同じ状況で、日本選手権の結果次第で、Road to Tokyo 2025で出場枠36人の中に入ってくる。
男子中・長距離種目では1500mの荒井七海、5000mの森凪也、3000m障害の青木涼真のHondaトリオが、現時点で枠内に入っている森だけでなく、日本選手権の結果次第で全員がRoad to Tokyo 2025の出場枠に入ってくる可能性がある。
●【フィールド】標準記録突破を期待できる男子走幅跳の橋岡
フィールド種目では現時点で、男子走幅跳の橋岡優輝(富士通)がRoad to Tokyo 2025の27位、女子走高跳の髙橋渚(センコー)が22位、女子三段跳の森本麻里子(オリコ)が36位につけている。フィールド各種目は36人が出場枠だ。
標準記録(8m27)突破に一番近いのが橋岡だ。19年世界陸上8位、21年東京五輪6位と連続入賞した実績を持つ。23年以降は米国のタンブルウィードTCに練習拠点を移し、助走スピードのアップに着手したが、23年以降の世界大会で入賞がない。今季もシーズンベストは8m10(+1.7)だが、手応えは一番あるという。
「ゴールデングランプリ(5位・7m92・+0.4)も体の状態は良かったと思います。最後のほんの少しの調整ができずに記録につながりませんでした。木南記念前の練習で良い走りができたときと同じ動きが、試合の1本目で現れたら、そこからは一気に何かが分かって、再現性も一気に高まる可能性があると思っています」
女子走高跳の髙橋は今年2月に室内で1m92を跳び、日本選手としては12年ぶりに1m90オーバーをやってのけた。だが屋外では、3月に豪州で1m86を跳んだが、5月のゴールデングランプリとアジア選手権は2試合とも1m80に終わった。
標準記録は1m97。日本記録を1cm上回る高さで、今の日本選手にとって簡単ではない。日本選手権では優勝を最優先し、もちろん記録も1m80台後半、またはそれ以上を跳び、Road to Tokyo 2025のポイントを上げることを狙うのではないか。アジア選手権から1カ月強でどう立て直してくるか。
代表争いとは別で、記録的に期待できるのが男子砲丸投の奧村仁志(センコー)だ。昨年19m09と日本人初の19m台をマークし、今季も19m08と日本記録に1cmと迫った。今年の日本選手権で、日本新の期待が最も大きい選手の1人だ。
女子円盤投の齋藤真希(太平電業)も、自身が今年4月にマークした57m65の東京記録を更新するだけでなく、日本人2人目の60mスローの期待もかかる。
【執筆者】 : 寺田辰朗 【執筆者のWEBサイト】 : 寺田的陸上競技WEB