男子円盤投優勝の安藤はアキレス腱断裂からの復調を確認。女子砲丸投は松下、女子やり投は奈良岡と、投てき強豪大学出身選手が優勝
東京選手権は4月25~27日に駒沢オリンピック公園総合運動場で行われた。男子円盤投は東京高出身の安藤夢(つくばTP)が5回目に52m35をマークして優勝。21年のアキレス腱断裂後は低迷していたが、今季の完全復調が期待できる内容だった。女子砲丸投に13m65で優勝した松下ちひろ(MAX)は国士舘大出身、女子やり投に48m30で優勝した奈良岡翠蘭(青森県庁)は日大出身。投てき強豪大学出身の利点を活用して、自身の競技生活を突き進んでいる。
●苦しんだ手術後の感染症を乗り越えて
21年11月の左脚アキレス腱断裂から3年半。安藤夢に笑顔が戻ってきた。
記録は52m35で、自己記録の56m40とはまだ4m差がある。東京選手権も「左に引っ張ったり右に抜けたり、(上下に)バサバサ飛んだり」という投てきだった。「調子は良かったので投げてやろう、という気持ちが強く出てしまいました。バサバサ飛ぶのはスピンがかかっていないから。腰が入らず手投げになっている結果です」
3月にも「53m半」を投げたが、それも失敗投てきだったという。
しかし失敗の原因がわかっている投げでも、52~53mの距離が出ている。「昨年は失敗したら49mでした。シーズンベストは10月の53m69でしたから、今年は55~56mは出せるんじゃないかと思っています」と、自己記録更新も視野に入ってきた。
アキレス腱断裂をした21年シーズンは、9月に55m15と自己記録に1m少しに迫る距離を投げていた。コントロールテストの自己新が、ほぼ全種目で出ていたという。自身への期待が大きくなり、意気込んで練習をしたことで「疲労に気づかなかった」という。11月の練習でダッシュを行っているときに、アキレス腱が「ブチっ」と音をたてた。「初めての大ケガで、頭が真っ白になりました」
手術後に感染症にかかり、それがかなりの重傷だった。1カ月半入院し、毎日のように傷口を開いて皮膚の移植を行ったりした。
22年後半で試合に強行出場し始めたが、50m57がシーズンベスト。23年は「出力と体のコンディションが合わなかった」ことなどで、複数の箇所に痛みが生じていた。シーズンベストは51m45で、50mを越えたのは数試合だった。
「丸2年を棒に振りましたが、昨年からやっと、痛みなく動くことができるようになりました。一度切ったアキレス腱は痛みやすいですし、体の左側に疲労が出やすくなっています。練習は違和感が出たらやめるようにして、左右のバランス良く筋力を発揮できるようになってきました」
24年は53m69まで記録を戻し、日本選手権も7位と3年ぶりに入賞した。
動き的には「ケガ前とあまり変わっていない」というが、痛みが出ないように丁寧に練習したことで、以前よりも正確なターンや投げができるようになっている可能性がある。
安藤は両腕を広げたリーチの長さが197㎝ある。一般的には身長と同じとされ、円盤投選手は身長プラス10㎝の選手もいるが、180㎝の安藤はプラス17㎝。「その長所をまだ生かし切れていません」。
また、以前は試合の方が練習プラス2~3m飛んでいたが、ケガをした後は逆になっているという。
「まずは良かったところを戻して自己記録を更新し、弱点を克服していく練習を組み込んでいけば、間違いなくレベルアップしていけます」
安藤が目指すのは60m。夢はまだまだ広がっていく。
●女子砲丸投日本歴代1~3位の先輩に導かれて
女子砲丸投は松下ちひろが5回目に13m65をプットして、2位に2m17の大差で優勝した。だが「悔しい結果になりました」という言葉が最初に出た。「14m台を安定して出せれば、グランプリ、日本選手権と自信を持って戦えたのですが、納得できる動きができませんでした」
国士舘大時代は14m47が自己記録で、関東インカレ2位が最高成績だった。卒業後1年目に14m74、2年目に14m98と自己記録を伸ばしたが、3年目の昨年は14m81と、15m台を目前に少し足踏み状態が続いている。
「不器用なのですぐに技術を身につけられないんです。大学では筋力、フィジカルをいっぱい練習して、少しずつ砲丸を動かせるようになっています。力が付いた分、腕で投げてしまい脚が使えていません。社会人になって特別支援学校非常勤の仕事もあります。技術面をより重視して、繰り返しこつこつ取り組むことで記録を伸ばすしかありません」
国士大は日本記録の18m22を持つ森千夏、17m57の豊永陽子、16m79の市岡寿実と、女子砲丸投の日本歴代1~3位選手を輩出した大学。松下は「技術もパワーもすごい方たちです」とレベルの違いは認識しても、自分の砲丸投にプラスになる存在ととらえている。「森さんの合宿のビデオを見たり、(豊永が教員をしている)徳島に行って教わったりしています」
3人より年齢的に近い白井裕紀子さんから、直接指導を受けてきた。白井さんが3人の技術を受け継ぎ、それを松下が学んでいる。2cmに迫っている15mが目の前の目標だが、松下が本当に投げたいのは白井の自己記録の16m00だろう。日本歴代10位記録であり、その投てきをすればレジェンド3人の投てきへの理解度がさらに上がる。
●金メダリスト北口との縁を糧に投げる奈良岡
女子やり投は奈良岡翠蘭(青森県庁)が1投目に48m30を投げ、2位に7m31の大差を付けた。「全体的な試合勘を試すことが狙いで出場しました。技術的には最後まで思い切り投げること。シーズン初戦としてはまずまず。6月、7月に向けて徐々に上げていきたいです」
奈良岡は高校3年時に国体とU18日本選手権に優勝し、3学年上に北口榛花(JAL)のいる日大に進んだ。大学3年時の4月に58m87まで自己記録を伸ばし、60mスローと日本代表入りを狙えるレベルに成長した。だが3年時に大きなケガをしてしまい、4年時はリハビリトレーニングを行いながら試合に出場したが、50mに届かない日々が続いた。
23年に社会人競技生活をスタートさせ、新しいコーチとトレーナーにも付いてもらった。だが「流れを作ることができず」に1年目は47m61、2年目の昨年は50m37と低迷した。それでも今年から、来秋に国民スポーツ大会開催を控える地元青森県に就職。一線で戦う覚悟を見せている。
「年々ケガの状態が良くなって、トレーニングも積めるようになってきました。記録が出る兆しを感じています」
奈良岡は北口の影響を大きく受けている。タイプや技術は異なっても、「動きの基礎となる部分を効率よく行い、少ない力で大きな力を出す」というスタンスが同じだという。北口と同様に解剖学的立位肢位の姿勢を重視し、その考え方に基づいてトレーニングを行っている。
ケガをした後の記録低下が大きかったが、過去に全国優勝したことと北口の存在が、頑張り続ける心の支えになった。
「今年の日本選手権は入賞し、国スポでは3位に入ることが(最低の)目標です。やはり納得して終わりたいので、60mを投げて世界大会に出場することが一番の目標です」
日大に進んだことで生じた北口との縁を大切に、自身が選んだ競技生活をやり遂げる。
【執筆者】 : 寺田辰朗 【執筆者のWEBサイト】 : 寺田的陸上競技WEB