【国民スポーツ大会東京勢展望】成年種目に東京世界陸上代表の中島と豊田。少年種目にインターハイ優勝者の小澤と古賀。充実の布陣で9年ぶり天皇杯獲得へ

 第79回国民スポーツ大会の陸上競技が10月3日~7日、滋賀県彦根市の平和堂HATOスタジアムで開催される。東京チームは29人の選手が選ばれ(東京チーム選手団★★★★★リンク挿入https://toriku.or.jp/storage/edd0eae8efbd51e567977c71f34ab48e.pdf)、成年種目に中島佑気ジョセフ(富士通)と豊田兼(トヨタ自動車)の東京2025世界陸上代表2人が参加。少年種目にも小澤耀平(城西高3年)と古賀ジェレミー(東京高3年)のインターハイ優勝者2人が出場する。他にもエントリー記録によるランキング上位選手が多く、16年岩手県大会以来の天皇杯優勝を目指す。

■10大会連続天皇杯8位以内を続けている東京チーム

 東京チームは都道府県対抗の国民スポーツ大会で、前身の国体を含め10大会連続8位以内を続けている(表参照)。国民スポーツ大会東京選手団の下山良成団長(東京陸協理事長)は「今年は岩手大会(16年)以来の天皇杯優勝を目指しています。女子も少数精鋭で皇后杯優勝を目標にしています」とチーム力に自信を持つ。

 大会主催者が発表しているエントリー選手ランキングでは、成年男子400mHの豊田が48秒55、少年男子B砲丸投の原裕斗(八王子高1年)は16m87、成年女子棒高跳の小林美月(日体大3年)が4m31と、3人が1位にリストアップされている。少年男子Bの増田陽太(八王子高1年)も、9月21日の東京都高校新人で10秒48(+1.7)をマーク。ランキングリストの1位を上回った。

 もちろん、ライバル道府県チームも強い。インターハイ男子総合優勝校の洛南高勢がいる京都、皇后杯で3連勝中の大阪は強敵と言っていい。最終日まで目が離せない戦いが繰り広げられるだろう。

■1~3日目:400m世界陸上6位の中島が、鵜澤ら200mのスピードランナーたちと300mで激突

 優勝争いに加わる東京チームの選手を、初日から順に紹介していく。

 初日(10月3日)は少年男子共通走高跳の清水怜修(明星学園高2年)と、少年男子Aハンマー投の北󠄁翔太(保善高3年)がエントリーランキングで3位につけている。清水は9月23日の東京都新人戦に2m12の自己新で優勝。インターハイは予選通過記録の2m01の3回目を棄権した。アクシデントがあったと推測できるが、今回は優勝争いに加わるだろう。北はインターハイでは64m76の3位。優勝者とはわずか47cm差だった。インターハイのリターンマッチを挑む。

 2日目(10月4日)は少年男子A300mに小澤、成年男子300mに中島と、優勝候補2人が出場する。小澤はインターハイ400mに46秒38の高校歴代8位タイの好記録で優勝したが、2位とは0.17秒差、3位も0.19秒差の接戦だった。200mの自己記録は21秒83で決して速くはない。300mの距離では、小澤は挑戦者的な立場で挑むことができる。

 成年男子300mの中島も、200mの自己記録は21秒07と高い方ではない。世界陸上200mで準決勝に進出した鵜澤飛羽(宮城・JAL)の自己記録は20秒11で、中島とは1秒近い開きがある。200mで日本学生個人選手権優勝の壹岐元太(滋賀・京産大4年)は20秒65、関東インカレ優勝の打田快生(三重・順大3年)は20秒70、日本選手権4位の沼田充広(京都・LEGALIS)は20秒58と、中島より一段上のタイムを持つ。

 400mで世界6位の中島と、200mのスピードで上回る鵜澤らとの対決は、今大会でも大きな注目を集めそうだ。

 3日目(10月5日)は成年男子400mHの豊田と成年女子棒高跳の小林が、エントリーランキング1位で臨む。

 400mHの豊田は世界陸上では8台目で、インターバル歩数の13歩が届かずバランスを崩したが、そこまではかなりのハイペースで飛ばしていた。47秒99(日本歴代3位)の自己記録更新も望めるほど状態は良い。だが日本選手権優勝者で世界陸上代表だった小川大輝(愛知・東洋大4年)、ブダペスト世界陸上準決勝に進んだ黒川和樹(山口・住友電工)と強敵も多い。優勝するには48秒台前半、それも47秒台に近い記録が必要になるかもしれない。

 小林は7月の日本選手権に4m31の日本歴代7位で優勝。長さ14フィート、耐荷重130ポンド、硬さを表すフレックスが25.5の「マックスポール」(小林)が使えるようになり、「世界でも戦えるようになりたい」と意欲も大きくなった。4m40以上のバーへの挑戦も期待できる。

■4~5日目:古賀にはU20日本記録の可能性も

 4日目(10月6日)は少年男子A110mJHの古賀、成年女子走高跳の森崎優希(日女体大2年)、少年男子B砲丸投の原裕斗(八王子高1年)、少年男子A円盤投の福宮佳潤(東京高2年)と、優勝争いをする選手が次々に登場する。

 古賀は6月のインターハイ南関東予選で13秒45(+0.1)の高校新をマーク。全国大会では追い風2.2mで追い風参考になったが、13秒18という素晴らしいタイムで2連勝した。110mJHでは昨年13秒41でU18競技会に優勝。そのタイムは今季のエントリーランキング1位に該当する。13秒31の高校最高記録だけでなく、13秒19のU20日本記録更新の可能性もある。

 森崎は8月のオールスターナイト陸上で1m82の自己新で3位。エントリーランキング2位で、同じオールスターナイト陸上で1m85を跳んだ津田シェリアイ(大阪・築地銀だこ)との優勝争いが予想される。

 原は昨年の全日本中学選手権とU16競技会で優勝。砲丸投の世代ナンバーワンを続け、今年のインターハイでも8位と、1年生では最高成績を収めた。今大会のエントリーランキングも16m87で1位だが、2位の工藤龍祈(北海道・北見藤高1年)が16m86と1cm差に付けている。優勝争いが激しくなるかもしれない。

 福宮は4月に投げた51m28でエントリーランキング2位だが、インターハイは予選を通過できなかった。5月に52m63を投げ、インターハイも優勝した東琉空(三重・稲生高3年)に一矢を報いたい。

 5日目(10月7日)は少年男子B3000mの加賀龍之介(國學院久我山高1年)がエントリーランキング3位、成年女子800mの勝(すぐれ)くるみ(筑波大3年)が同2位で臨む。両種目ともエントリーランキング1位の選手とは少し開きあるが、中・長距離種目では十分勝負ができるタイム差だ。

 そして最終種目の男女混合4×400mRは優勝候補に挙げられている。成年の男子と女子、少年の男子と女子が各1人ずつ出走し、走順は男子-女子-男子-女子と決められている。成年男子は中島と豊田の世界陸上代表コンビのどちらかで、少年男子は小澤が有力。男子の1・3走は個人種目の優勝候補が走る。女子が“自分たちの頑張り次第”とプレッシャーに感じず、“このチームなら頑張れる”という雰囲気になれば、優勝が可能な戦力だろう。

■「循環型の活躍を」と下山団長

 東京陸協には有力実業団チームも多数登録している。他の道府県よりも強力選手を招集できるが、今大会の成年選手は全員が東京の高校出身選手になった。戦うことが目的なので意図的にそうしたわけではないが、下山団長は「循環型の活躍」という視点で今回の選手団編成をとらえている。

「国民スポーツ大会で成年選手を間近に見て成長した高校生・中学生が、全国大会で活躍したり日本代表に成長したりする。彼らが引退後は指導者になって東京に戻ってきて、また後進を育てていく。その循環を促進するのが国民スポーツ大会です」

 選手にとっては「通過点の大会」だと下山団長は言う。しかし本気になって勝負をしないと、重要なことが肌で感じられない。通過点として学ぶことが少なくなってしまう。

 東京チームは本気で、9年ぶりの天皇杯を取りに行く。

執筆者】 : 寺田辰朗          【執筆者のWEBサイト】 : 寺田的陸上競技WEB