東京2025世界陸上の東京勢③

東京高出身の髙橋が大舞台でセカンド記録の1m88。あと少しで決勝進出の健闘

 東京2025世界陸上が9月13~21日、国立競技場を中心に開催された。東京の高校出身の選手としては男子では100mのサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ。城西大城西高)、400mの中島佑気ジョセフ(富士通。城西大城西高)、400mHの豊田兼(トヨタ自動車。桐朋高)、走幅跳の橋岡優輝(富士通。八王子高)、4×400mR補欠の田邉奨(中大。広尾高)、女子では走高跳の髙橋渚(センコー。東京高)が代表入り。決勝には進めなかったが、髙橋も地元の声援を背に1m88の自身セカンド記録と健闘した。

■1m83で1回、1m88で2回の失敗

 取材スペースに髙橋は、笑みを浮かべながら姿を現した。

「初めての世界の舞台なので、どんな形であれここがスタートラインだと思っていました。自分らしい跳躍をすることが第一の課題でしたが、それがちゃんとできたことが嬉しかったです」

 最初の高さが1m83で、普段の試合では考えられない高さだった。1回目は惜しい跳躍だったがバーは落下。2度目でクリアした。「1回目も動きは悪くないと感じられました。もう少し踏み込めたら、という課題が明確になって、その後1本1本丁寧に跳びました」

 続く1m88は、自己記録の1m92に次ぐセカンド記録タイ。その高さを2回失敗して瀬戸際に追い込まれたが、3回目で成功した。「1本目と2本目は少し突っ込んだり、跳び急いだりがありましたが、やりたい動きはできていました。今日は1本1本無駄にしないで跳ぶぞ、というところに集中できていましたね。3本目にしっかり集中して、会場の盛り上がりもあって気持ちの良い跳躍ができました」

 1m92は跳ぶことができなかったが、1m88までノーミスで跳んでいれば予選を通過できた。

 大観衆の声援も味方に付けることができた。「想像を超える数の観客の方たちが入ってくれて、男子走高跳の予選をスタンドから見た時はちょっと怖くなっちゃったんですが、ピットに立ったらみんなが、温かく後押ししてくれている感じがすごく伝わってきました」

 髙橋の今季の国立競技場での試合は3試合目。5月のゴールデングランプリは1m80の4位、7月の日本選手権は1m84を跳んだが2位と敗れ良い思い出はなかった。それを今回、地元世界陸上という大舞台で決勝進出に迫る跳躍を見せ、思い出に残る結果で上書きした。

■日本人11年ぶりの1m90台とその後の不調

 髙橋は2月に、チェコの室内競技会で1m92の自己新をマークし、日本選手として11年ぶりに1m90の大台を跳んだ。この記録を世界陸上でも跳べば、予選を突破できる。1~2月に海外で出場した室内競技会では、1m88のセカンド記録も2試合で跳ぶなど高いレベルで安定していた。

 だが屋外シーズンに入ると何かが狂い始めた。5月のゴールデングランプリとアジア選手権は1m80にとどまった。6月の記録会で1m87と持ち直したが、7月の日本選手権は久しぶりに日本人選手に敗れた。8月には「練習として」出た試合ではあるが、1m78に終わってショックを受けていた。

 調子が下降した理由の1つとして、髙橋は「カーボン入りのスパイク」への対応を挙げた。

「去年のシーズン終わりから使い始めて、室内の1m92もそのスパイクでしたが、屋外シーズンになって地面をつかめている感じがしなかったり、コーチのアドバイスが合わない期間が続いたりしました。カーボンを抜いてやるようになったら、これだったんだね、と気づくことができました。」

 しかし1m92を筆頭に、1m88以上を3回もカーボン入りのスパイクで跳んでいる。髙橋はシーズンが深まって「体重がカリカリになっている」ことや、「助走スピードが出過ぎて踏み切りを合わない」ことに言及した。体重が室内シーズンの頃にもどり、「パワーが付いたら」(髙橋)、再びカーボン入りを使う可能性も示唆している。

「引き出しが1つ増えました」

 スパイクの変更を決断できたことも大きかったが、一番はやはり、東京世界陸上で何かを残す、という強い意思が髙橋にあったことだろう。

「世界陸上に出場して、決勝にも行けなくないんじゃないか、と感じられました。この大舞台で感じられたことが大きいと思うので、決勝に出る気持ちはぶらさずに頑張ります。強気でやっていた時の自分を世界陸上で思い出して、心の底から楽しい試合ができました。世界のトップ選手に混じって跳びたい。この気持ちを大事にまた頑張ります」

 地元開催の世界陸上を笑顔で終えた髙橋。次は海外の国際大会でも笑顔を見せてくれるだろう。

執筆者】 : 寺田辰朗          【執筆者のWEBサイト】 : 寺田的陸上競技WEB