今年の陸上競技日本一を決める日本選手権が7月4~6日、東京・国立競技場で男女34種目が行われた。女子棒高跳は明星学園高出身の小林美月(日体大3年)が4m31の学生新で優勝。諸田実咲(アットホーム)が20年(当時中大)に出した4m30の学生記録を更新した。昨年までは4m15が自己記録だった小林。躍進の背景には何があったのだろうか。

●「4m30を跳びに来たので」
勝敗を分けた高さが4m10と4m25だった。小林は4m00まではノーミスでクリアしたが、4m10を2回失敗した。
「たぶん気持ちの問題だったと思います。調子が良く自信があったことで、逆にプレッシャーを感じてしまいました。始まったときから手に力が入らない、脚に力が入らない状態でしたが、4m30を跳びに来ていたので、4m10で終わるわけにはいきませんでした」
4m10を3回目に跳ぶと、「そこからは自信を持って、いつも通りというか、リラックスして跳ぶことができました」。次の4m20は自己記録を5cm更新する高さだが2回目に、4m25も1回目にクリアした。
4m25からは初めて、長さ14フィート(4m30)、耐荷重130ポンド、フレックス(硬度の単位)が25.5の「マックスポール」を使うことができた。
「今まではマックスポールでは(振り上げから倒立姿勢、そしてバーを越えていく)“空中”を作ることができませんでしたが、今日は“空中”までスムーズに持っていくことができました」
4m30は2度失敗したが、大坂谷明里(愛媛競技力本部)が4m30を2度失敗した時点で小林の優勝が決定し、3回目をパスして4m31の学生新にバーを上げた。
「4m31の時は助走も踏み切りも空中も“はまったな”っていう感覚があって、踏み切った瞬間に“これ跳べたな”っていう手応えがありました」
マックスポールを使いこなす状態を作ることができた理由は、総合的な取り組みの結果だが、1つ挙げるとすれば3月の肋骨骨折から復調するプロセスで、筋力が上がった可能性がある。「ウエイトトレーニングのメニューを、出されているものにプラスアルファでやりました」
日本選手権前最後の跳躍練習で、マックスポールの「1個前」のポールを使い、ゴムバーで4m40の高さを跳んでいた。そのポールも、練習段階で使えることはこれまでなかった。そのくらいに身体が、良い状態に仕上がっていた。
●東京記録保持者の諸田と切磋琢磨を
小林は明星学園高時代の22年インターハイに優勝。4m00の高校歴代8位タイの高さを跳んでいた。日体大入学後は関東インカレを3連覇中。1年時はU20日本選手権、2年時は日本インカレの全国タイトルも獲得した。
1年時は4m13と13㎝の伸びを見せたが、2年時は4m15と2cmだけの自己記録更新にとどまった。記録よりも勝負強さが特徴だっで、その証拠にアベレージが毎年上がり続けていた。今年は4m10を何度も跳び、今大会の大幅自己記録更新につながった。
しかし世界陸上の参加標準記録は4m73で、日本の女子棒高跳は世界から置いていかれている状況だ。その中で奮闘しているのが東京記録(4m41・24年)保持者の諸田で、23年には杭州アジア大会で4m48の日本記録を跳び銀メダルと健闘した。4m40以上を跳べばアジアで戦っていける。そして4m60を跳べば、五輪&世界陸上の入賞が見えてくる。
小林は諸田の学生記録を更新したことで、次は諸田の東京記録を、その次は諸田の日本記録を目標にしていける。しかし諸田も、日本選手権こそ欠場したが、まだばりばりの現役選手。東京記録や日本記録を更新していく可能性は大いにあるし、そこに小林が挑戦していけば、日本の女子棒高跳のレベルが上がっていく。
「これからは日本じゃなくて、世界でも戦えるようにレベルアップしていきたい。4m31は通過点かな、って思います」
東京勢の切磋琢磨が、日本の女子棒高跳を世界へと押し上げる。
【執筆者】 : 寺田辰朗 【執筆者のWEBサイト】 : 寺田的陸上競技WEB

