公認審判員(ハンドブックより抜粋)
1. 公認審判員制度
競技会における役員は、運営面(主催、共催、後援等)を担当する大会役員と直接競技そのものに携わる競技役員とから構成されている。競技役員は、競技をスムーズに進行させるための総務系統を担当する役員と、規則に則った審判を行い、その結果の記録および順位を正しく判定する競技系統の役員に分けられている。
通常、総務系統と競技系統を合わせて、それぞれの職務にあたるものを審判員と言うが、競技会前の準備に携わる役員と競技会当日の運営に携わる役員の両方を含めて広く解釈している。競技が公平で信頼できるように、また競技者が快く競技することができるようにするためには、審判員の役割は重要である。そのためには信頼のおける審判員が不可欠であり、その資格が検討されなければならない。
日本陸上競技連盟では、1948年から公認審判員制度を設け、その制度のために定められた公認審判員規程の下で、資質の向上を目指して実践してきた。その規程は数回の修改正を経て、現在に至っている。現在の規程は2014年3月に改正されたものである。
公認審判員規程の要点
- 公認審判員の任務に関すること
- 資格に関すること
公認審判員は加盟団体の登録会員でなければならない。 - 公認審判員の級別に関すること
審判員を審判技術、審判態度、経験年数、年齢等の条件に応じて、S級・A級・B級に分類した。
この級別によって審判員の努力目標が明示され、積極的な規則の研究、審判講習会や競技会の参加等によって審判員の養成や技術の向上、審判員組織の確立ができるようになった。
この級とは別に、競技規則や運営に関する知識の確かな審判員を選考し JTOʼs(Japan Technical Officials)として各種主催・共催・後援競技会に派遣し、審判長を補佐する制度を発足させた。
また、競歩競技における歩形判定技能や競技運営には、専門的な知識と経験が必要となることから、IAAF基準を満たした競歩審判員をJRW(J Japan Race Walking Judges)として認定し、本連盟主催・共催・後援競技会に派遣している。 - 公認審判員の推せん、審査および委嘱に関すること。
- 公認審判員の解任および復権に関すること。
- 審判員手帳、公認審判員章(カード)およびバッジの制定に関すること
- 記録が公認される競技会における公認審判員の役割に関すること
競技会の権威と記録の信頼性を確保するために、公認競技会の競技役員は補助役員を除きすべて公認審判員で構成しなければならない。
以上7項目に付いて挙げたが、電子機器や情報技術の発達および開発によって、競技会の運営や審判技術は一層科学性を求められるようになっている。
本連盟および加盟団体は、この要求に応じ得るようにあらゆる手段を講じて、優秀な審判員の確保と養成に努力することが大切である。
2. 公認審判員資格取得の基準
(1)公認審判員となる条件
- 陸上競技規則を熟知すること。
- 1つの審判部署に関して深い経験をもち、かつ優れた技術または能力を有していること。
- 審判員としての態度が立派で、かつ人間関係が円満であること。
- 審判員として一定の経験年数に達していること(S級、A級が対象)
- 現在審判員としての熱意を有し、委嘱があれば可能な限り出席していること。
以上5条件を基準として、3つの級に分けられている。公認審判員として認定された者は、その努力によって順次上級に進むことができる。
(2)S級公認審判員資格取得の基準
現在 A級公認審判員で満10年を経過し、55歳(3月末を基準とする)に達した者のうち、審判員としての活動に精励し、熟練した審判技術と知識を有する者(公認審判員規程第4条)。
審判講習会(主な内容が当該年の競技規則修改正の伝達など)出席回数については、原則として年1回とする。ただし、少なくとも5年間で3回以上の出席がなければならない。
(3)A級公認審判員資格取得の基準
現在 B級公認審判員で原則として満10年を経過した者のうち、数多くの審判員としての活動を通して、より高い審判技術と知識を身につけた者。
A級公認審判員の資格は、加盟団体で審査し、本連盟は当該級の審判員の資格を取得したものとして委嘱し、審判員手帳を交付する。
(4)B級公認審判員資格取得の基準
- 加盟団体の登録会員で18歳に達した者は、B級公認審判員となる資格を有する。
〔注〕加盟団体は、公認審判員の資格取得を希望する者に対して審判講習会を開催し、テスト等の結果、加盟団体の競技会の審判ができると認定された者に資格を与えることができる。 - 日本学生陸上競技連合に登録する学生については、同連合からの申請に基づき本連盟競技運営委員会審判部で審査し、B級公認審判員に委嘱することができる。
3. 公認審判員の推せんと承認
公認審判員の推せんと承認は、公認審判員規程第4条、第5条3項によって行われる。S級公認審判員資格取得の事務処理は、後述8.公認審判員「資格取得等の事務手順」を参照のこと。
S級公認審判員は、加盟団体が推せんする。推せん書類は本連盟競技運営委員会審判部指定の期日までに、本連盟に提出する。
S級公認審判員は、本連盟競技運営委員会審判部で審査し、理事会の承認を得て本連盟が委嘱する。
提出に際しての留意点
- S級公認審判員推薦候補者は、A級公認審判員の昇格時からの審判員手帳を添付すること。添付されない場合は、対象者から除外するので留意すること。
- 審判員手帳には、出席競技会名を一括整理してはならない。競技会の都度、記録するよう留意すること。
- 加盟団体が候補者を推せんする場合は、公認審判員の資格取得の基準の条件に適合する者のみ行なうこと。
- A級,B級公認審判員については、各加盟団体によって確認された審判員数を、毎年4月末日までに本連盟に報告すること
4. 公認審判員の解任と復権
公認審判員規程第5条によって、つぎの各号の1に該当するときは、自動的にその任を解かれる。
- 登録会員でなくなったときは、解任される。
ただし、特別の事情によって、一時的に登録会員でなくなっても、その特別な事情が解消し、再び登録会員となったときには、以前の資格を回復する。 - 競技会の審判員を委嘱されたにもかかわらず、1年以上特別な理由もなく、その任にあたらないとき。
- 前1,2項により解任された者で復権を希望する者に対しては、申請に基づき S級公認審判員は、本連盟競技運営委員会審判部によって審査し、本連盟がこれを委嘱する。また A級および B級公認審判員については、加盟団体で審査し、本連盟がこれを委嘱する。
5. 公認審判員の心得
公認審判員は、競技者のよき指導者として高い識見を有し、常に競技規則を研鑚するとともに正しい審判技術を身につけ、公正で適切な審判ができ、競技会の円滑な運営を図るために協力する心掛けが必要である。
また公認審判員の資質の向上を図る心得として、つぎのことに留意する。
- 審判員として委嘱を受けたときは、可能な限り出席し、数多くの競技実例を体得し、審判技術を磨くことに務める。
- 直接、審判員として任務する以外に、競技会を見学または視察などして競技会の運営や審判方法を身につけるように努める。その際は、審判手帳を提示し、証明を受けるようにする。
- 毎年少なくとも1回の審判講習会に出席し、規則の理解と研究ならびに技術の向上に努める。
- 自己の専門領域外の審判技術に対しても精通することが大切であるので、各種の審判員を経験し、オールラウンドな審判技術を習得するように努める。
6. 公認審判員の服装と態度
(1)服装について
審判員の服装は、スポーツの特性に応じて、それに相応しい服装が定められている。まず競技者と審判員の区別ができる服装でなければならない。また審判員によっては、その任務がはっきり識別できる服装も考えなければならない。本連盟では、審判員の服装について、概ねつぎのようなものを標準としている。
- 平常の競技会における服装
男性は白ワイシャツ、紺または黒のブレザーコート、グレーのスラックス、女性は白ブラウス、グレーのスカートまたはスラックスおよび加盟団体制定のネクタイ、スカーフ、帽子等の着用を標準とする。ブレザーは必ずボタンを止めるように心がける。 - 夏季における服装
男性は半袖白ポロシャツ、グレーのスラックス/ハーフパンツ、女性は半袖ブラウス、グレーのスカートまたはスラックス/ハーフパンツ、加盟団体制定の帽子の着用を標準とする。尚、審判長、スターター ・リコーラーおよび各主任等は、よく目立つ色の帽子や服装を着用するようにしている。 - その他の着用物
公認審判員章(カード)、バッジ、 IDカード(必要なとき)、腕章(必要なとき)を着用する。
(2)態度について
- 競技場内での歩行
競技場内での出入りは、堅苦しくなく、自然体で歩くようにする。特に配置につくとき、また待機位置に戻るときの行動は、できるだけ団体行動をとり、歩調を合わせるようにすることが望ましい。 - 競技者に接するとき
審判にあたるときの姿勢は、競技者が快く競技に参加できるように接し、不快の念を抱かせるような態度は慎むべきである。 - 審判にあたっているとき
規則に則り、適切に公正な態度で審判にあたり、私語または他人に無駄な話しかけをしないように心がける。
また椅子に座っているときに、足組みまたは腕組みをして審判をするような行為や、首を傾げる様な動作は慎む。
7. その他の留意事項
(1)競技の理解について
本連盟の競技規則は、特別なものを除き国際陸上競技連盟(IAAF)の競技規則に準拠した内容になっている。特別なものというのは、国内の競技会において採用することが適切でない条項があるので、その条項は別扱いにしているということである。これらの条項は、直接的に理解できるように〔国際〕と表記している。これらの条項は国際大会のみ適用されるもので、国内の競技会には適用しないということである。
この他ルールブックに掲載してある表記の中に、〔注意〕、〔国内〕、〔国際-注意〕、〔参照〕等が説明してあるので、理解しておくこと。
IAAFでは、大きな競技規則の改正は4年ごとと決められているが、細かい改正は毎年行っているので、本連盟の競技規則も改正せざるを得ない現状である。従って常に研修を怠らない姿勢をもつ必要がある。
(2)競技注意事項について
競技会当日に受け取ったプログラムの中に、必ず競技注意事項が掲載されている。この注意事項には、競技運営に関する事項や競技規則に準ずる内容あるいは申し合わせ事項等が記載されている。これを読まずに審判にあたったため、大きな誤りをすることもある。競技開始前の習慣として精読し確認することを、ぜひ身につけておきたいものである。
(3)審判員の連携
競技会の運営を良くするには、審判員のチームワークが大切である。陸上競技は競技場が広く、しかも同時に数種目が競技をしていることも多く、連携がうまく取れないと大きなミスに繋がることもある。各人、各グループが責任をもって任務を果たすことは当然であるが、関連するグループとの連携プレーも重要である。また情報機器を有効に使用した競技運営の大切さを理解し、実践にあたってほしい。
(4)豊富な経験
審判員の委嘱を受けたら出席し、経験を深める努力が必要である。また委嘱を受けなくても、競技会を見学して、研修する機会を多くもつことが大切である。その際には、「ルールブック」とともに「ハンドブック」も持参すれば、より深い研修ができる。
(5)柔軟な競技会運営
競技会には、初心者の参加が多い競技会、経験者の多い競技会など競技会の内容の相違する競技会が数多くある。参加する競技者の質が相違するので、いつもワンパターンの競技会運営では、競技者に対して、不満を残した競技会になってしまう。臨機応変な姿勢をもつことも大切である。
競技者に対する接し方は、公平で親切が基本でなければならないが、競技者の緊張状態を少しでも緩和する雰囲気を作り、審判員の言動や態度などに留意すれば、自己記録を出せるような競技会運営は必ずできるはずである。審判員の心がけひとつであることを忘れずに審判にあたってほしいものである。
(6)観客に対する配慮
競技会の規模・性格にもよるが、観客の多い競技会では、競技者と審判員だけということではなく、観客に対するサービスも考えなければならない。
審判員の位置、記録表示の仕方、判定の明確化とスピード化など、審判員の創意工夫によって、観客に対するサービスが数多くできる。興味深く見られる競技会運営は、審判員の努力にかかっているということを常に頭に入れ、創意工夫に富んだ競技会運営に努めていただきたい。
8. 公認審判員資格取得等の事務手順
(1)公認審判員に関する書類
陸連ではつぎの種類を用意している。
- S級公認審判員候補者推薦名簿(書式第1号)
- S級公認審判員候補者審査資料個人票(書式第2号)
- ○○年度 S級公認審判員登録名簿(書式第3号)
(2)S級公認審判員候補者推薦の申請
加盟団体では、S級公認審判員候補者推薦名簿(書式第1号)、個人票(書式第2号)および現在使用中(前昇格時の手帳も含めて)の審判員手帳をそろえて、指定期日までに陸連競技運営委員会審判部宛に申請する。
(3)審査
陸連競技運営委員会審判部では S級公認審判員の審査を行い、理事会の承認を得た後、昇格決定者名を加盟団体に連絡し、審査済みの審判員手帳を返却する。返却された審判員手帳は、各審判員に渡す。
(4)昇格者の登録名簿の提出
加盟団体では、連絡を受けた昇格者の名簿を書式第3号によって3部作成し、1部を陸協控えとして残し、2部を4月末日までに陸連事務局に送付する。陸連では書式第3号の登録名簿の確認を行い、割印をして1部を正本として陸連に保管し、1部を加盟団体に返送する。
(5)審判員手帳作成上の注意
- 審判員登録番号は陸協ごとに通し番号とする。
- 委嘱年月日、取得年月日は同日とし、その年の4月1日付とする。
- 写真には陸協の責任印(刻印)を押す。
(6)転入・転出
転入・転出があるときには、加盟団体相互で連絡をとる。
日本学生陸上競技連合に登録している学生が、卒業後引き続いて審判員活動を行う場合には、学連から各都道府県陸協へ移籍手続きを行う。