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企業とアスリート:第2回 株式会社壽屋


株式会社 壽屋
代表取締役社長 清水一行氏

  企業とアスリートを結びつけるきっかけは実にさまざまである。
個々の情報発信力が高まる時代、まさにSNSを通じてアスリート雇用につながった企業がある。まもなく設立70周年を迎えるホビーメーカー、株式会社壽屋だ。

 

  「感動と驚きを世界中へ提供する」をテーマに、日本ではもちろん、世界でも人気の高いアニメや漫画、映画などの精巧なフィギュアやプラモデル、雑貨などの製品を展開する。またコンテンツの企画、開発、販売までを一貫して行い、海外でのイベント出展も次々と実施し、エンターテインメント分野のさらなる発展を目指している。ホビー業界で国内外に向けてさまざまな事業展開を行う壽屋だが、2016年4月、ある1人の学生ランナーを初めて採用することになる。

 

アスリート採用の目的は「スポーツとサブカルチャーの橋渡し」

  「スポーツを通じてサブカルチャーの橋渡しができればという思いが、アスリートを雇用する最初の目的でした」と話すのは、代表取締役社長の清水一行氏だ。2016年4月に「コトブキヤ陸上部」が誕生し、現在も1人実業団チームとして活動する稲田翔威選手がいる(入社4年目)。

 

稲田選手とのつながりは、SNSの交流がきっかけだった。

 「出会いは2014年第90回の箱根駅伝でした。彼は当時、順天堂大学の2年生ランナーで、"抜かれた分だけ趣味のフィギュアを没収する"とコーチに告げられ、結果的にフィギュアを2体没収されてしまいました。後になって、その2体のうち1体が当社の製品だったことも分かりました(笑い)」。

 

  この出来事がネット上でニュースとなり、宣伝担当の目に留まった。「これを見た宣伝担当の社員が、当社のツイッターアカウントを利用して『没収されたフィギュアを当社で補てんします!!』と提案したところ、ネット上でも話題になりまして。稲田選手本人とSNSでつながったのです」。

 

  その翌年から"アニメ好きの箱根ランナー"として、会社は稲田選手を応援した。「彼の大好きなアニメ作品をキャラクター化した応援旗を使って、もちろん、版権元である企業のご理解、ご協力を得まして、立川市で行われた予選会から、箱根本選の区間も沿道で声援を送りました」。

稲田選手が大学4年生の就職活動時期に入った頃、社内で雇用に関わる話が持ち上がった。

  「お付き合いのあった順天堂大学陸上部のコーチから企画書をいただきました。『彼を宣伝ランナーにしませんか』と。彼にアニメのTシャツを着て活動してもらうなど、トレーニングメニューから出場する大会の候補、宣伝ランナーとしての活用方法まで、実に具体的で魅力的な内容でした。それゆえ私もその企画に賛同しましたが、雇用するにあたっては"1つの条件"を出しました」。

 

雇用の条件は、働きながら仕事を覚え、アスリートとして活動すること。

それはアスリート雇用における企業の課題でもあった。

  「会社の宣伝ランナーだけをやってきて、例えば30歳を過ぎて、ケガなどの故障で走れなくなったら、それで終わり…。それでは本人が一番困るのではないかという考え方で、働きながら仕事を覚え、当然アスリートとして活動する。ズルイといえばズルイですが、ウマイといえばウマイ。そんな環境を社内で作ることはできないのか、私たち企業側も働き続ける環境づくりを模索しています」。

 

  アスリートでありながら仕事を覚えるのはもちろんのこと、走れなくなっても、走らなくなっても社会人として学んでもらい、末永く雇用する。清水社長の条件は、採用された稲田選手を通じて周囲の意識も動かした。

 

  「このような採用は彼が初めてで、当社の中でも特殊な環境だと思います。周りの反応としては、彼に頑張ってほしい!と応援する社員が多いです。沿道で声援を送るだけでなく、SNSなどでプライベートのつながりをもったり、一緒に練習をしたり、店舗(コトブキヤ秋葉原館)で勤務する彼のスケジュールを調整したりと、気持ちよく動ける環境づくりをサポートしています」。

 

  普段の稲田選手は、店舗勤務を終えた夕方からトレーニングを開始する。ランナーとして負担のかかる食費やその他必要な費用は部費で補助が出るが、それ以外は通常社員と変わりない。また大会の出場や合宿は、宣伝ランナーとして勤務(出勤)扱いとなっている。

 

ホビー業界におけるアスリートの雇用は、想像以上の宣伝効果をもたらした。

  「彼がきっかけで陸上競技が活発な地、茨城県の地方大会に出場した時は、アニメ作品の聖地で応援感謝のファンイベントを行い、アイドルさながらのお渡し会なども開催させてもらいました。彼を知っている方たちは、沿道で彼の好きなアニメ作品の旗を振って応援してくださいましたし、稲田選手自身たいへん励まされたと実感していました。また入社までの経緯や宣伝ランナーとして勤務する様子はいくつものTV番組にも取り上げられ大きな反響になっています」。

 

  「最近では、体幹やストレッチに関するトレーニング動画が好評で、今ではこうしたファンの方たちに、アニメに関わる共有だけでなく、走ることや体を鍛えることにも興味や共感をもって頂いています」。スポーツを通じてサブカルチャーとの懸け橋として貢献する。雇用の際に掲げたこの目的は、着実に実を結び、前進している。

 

最後に、アスリートに期待することについて清水社長はこう語る。

  「アスリートの考え方として、"厳しい"、"つらい"、"難しい"などの壁にぶつかっとき、目標に対してどう乗り越えていくか。それが行動のもとになっていると思います。またそこにはビジネスのヒントになることがいっぱいあります。つまり、稲田選手にも、彼が感じたものや言葉にビジネスに通じる考え方、判断、行動のもとが詰まっています」。続けて「雇用する上で、アスリートの方たちには自身の経験、日々行っていることを、自身の言葉や文字でどんどん情報発信してもらいたいです。私たちにとって、気づきのあるものが沢山ありますから」。

 

  アスリートの発信力は、単に企業の注目を浴び、雇用を結ぶきっかけにとどまらず、企業を驚かせる新たなビジネスの発展に貢献しているのだろう。

 

■壽屋陸上部 稲田翔威選手

コトブキヤ宣伝ランナーとして7月の東京選手権で活躍(10000m 3位入賞)

日中はコトブキヤ店舗でフィギュアを販売している

 

 お問い合わせ
(公財)東京陸上競技協会事務局 
担当:森田
TEL: 03-3203-6123 email: morita@toriku.or.jp